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私としては昨日のあれはすでに忘れてしまいたい過去なのだ。
なのに改めて切り出され、カップを持つ手がぴくりと反応した。
「あの。
昨日は無理を聞いていただき、ありがとうございました。
その、もうそれは、大丈夫ですので」
部長のおかげで、あんなに痛んでいた胸の傷は完全に塞がっていた。
もう、次に裕司さんとは、普通に義理の妹として会える。
「いや、それじゃなくて。
あ、いや、紀藤の役に立てたんならいいけどな」
眼鏡の下で彼が、目尻を下げる。
それはとても嬉しそうで、頬がほのかに熱を持つ。
それにしてもいつも敬語の彼が、口調が違うのが気にかかった。
「昨日、『どんなに努力しても、姉が一番で私は二番』って言ってただろ。
紀藤はそれでいいのか」
部長は真剣だが、なにを言いたいのかわからない。
「別に私は、姉からあの人を奪いたいとかそんなことは……」
「違う」
首を横に振られたって、私の気持ちに嘘はない。
それに勝手に否定されて、むっとした。
「違いません」
「違う。
俺が言いたいのはそんなことじゃない。
紀藤はいつまでも、二番に甘んじていいのか、ってことだ」
やはり、部長がなにを言いたいのか理解できない。
私が二番に甘んじている?
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