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「紀藤はどんなに頑張ったって、姉に、誰に絶対に敵わないって、諦めているんじゃないのか」
「それは……」
部長の指摘にドキッとした。
彼の言うとおり、私はいくら努力したって無駄なんだってどこかで諦めていた。
諦め、努力することをやめていた。
それに富士野部長が気づくなんて。
「このままずっと、所詮私は誰かに敵わないんだって、いじけたまま生きていくのか」
「いじけていません!」
反射的に否定したものの、これはただの見栄だ。
私は姉に、誰かに敵わないのだといじけていた。
部長に言われ、初めて自分の気持ちに気づいた。
「紀藤は、一番になりたくないのか」
レンズの向こうから真っ直ぐに富士野部長が私を見据える。
その強い視線に射られ、目は一ミクロンも逸らせない。
「私は……」
どくん、どくん、と心臓が自己主張する。
硬く握った拳の中は、じっとりと汗を掻いていた。
喉がからからに渇き、言葉を疎外する。
一度、唾を飲み込み、再び口を開いた。
「……一番になりたい、です」
それが、なんの一番かなんてわからない。
ただ、上を見上げて私はあそこへ行けないのだと諦めるのはもう嫌だと思った。
もし諦めなければ、裕司さんとの関係だってなにか変わっていたかもしれない。
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