第一章 一番にはなれない私

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いい考えな気がして、そろりとベッドから下りる。 「もう起きたのか」 落ちていた下着に手を伸ばしたところで声をかけられ、びくりと大きく身体が震えた。 「えっ、あっ、……はい」 まさか逃げようしていたなんて気づかれるのが怖くて、振り返れない。 「身体、大丈夫か」 「あ、はい。 ……平気、です」 背後で、部長がベッドから出た気配がする。 そろりと指先で下着を引き寄せ、素早く穿いた。 「なら、いいが。 シャワー、浴びてこい? 着替えはあとでなんか持っていってやるから、とりあえずこれ着とけ」 眼鏡をかけ、黒のボクサーパンツを穿いた部長が、私に向かって落ちていたワイシャツを投げる。 「お言葉に甘えて、そうさせてもらいます」 そのシャツを拾って羽織り、昨日借りた浴室へと向かった。 昨晩と同じく浴室でシャワーを浴びながら、昨日一日を思い出す。 昨日は、姉の結婚式で、そして……。 姉の結婚式は祝福するかのように青空だった。 結婚式前、控え室では準備の済んだ姉と、花婿の裕司(ゆうじ)さんが談笑していた。 私に気づき、姉が微笑みかけてくる。 「明日美(あすみ)」 「お姉ちゃん、裕司さん、結婚、おめでとう」 「ありがとう、明日美」 ふわりと空気に融けるように、姉が笑う。
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