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かといって自分のマンションの部屋でひとりきりになるのも嫌で、適当に飲めそうなイタリアンのお店に入った。
「――紀藤さん?」
店員に席に案内される途中、声をかけられてそちらへ目を向ける。
そこには上司の富士野部長がいた。
「おひとりですか?」
「ええ、まあ」
曖昧な笑みで答える。
それでなにかを感じとったのか、彼は黒縁ハーフリムの眼鏡の下で僅かに眉を寄せた。
「よかったら一緒にどうですか?」
さりげなく、部長が席を勧めてくれる。
「ええっと……じゃあ」
上司から誘われると断りづらい。
それにひとり淋しく飲むと今日は悪酔いしそうな気がして、その誘いに乗った。
メニューを受け取り、カシスソーダとサラダを頼んだ。
「今日はなにかあったんですか?」
これはなにか私を心配して聞いているのかと一瞬思ったが、ただ単にドレス姿だからとすぐに気づいた。
「姉の結婚式、で」
「そうですか。
それはおめでとうございます」
「ありがとうございます」
祝いの言葉を、頭を下げて受ける。
そのタイミングで頼んだお酒が出てきた。
一口飲んで、喉を潤す。
「富士野部長こそ休日なのにスーツなんて、お仕事だったんですか」
私は飲料メーカーに勤めている。
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