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「はい。
今日はとても美しい……っと、これはセクハラですか?」
悪戯っぽく笑い、部長が片目をつぶってみせる。
おかげで一気に酔いが回ったかのように顔が熱くなった。
「いえ。
それに褒めていただいたのに悪いんですが、いくら着飾っても私には姉に敵わないので」
熱くなった顔を落ち着けようと、グラスを口に運ぶ。
今日の姉はアフロディーテも裸足で逃げだすほど美しかった。
もし、私が同じドレスを着て同じようにメイクしたとしても、あそこまで美しくはなれない。
「私はお姉さんを知りませんが、紀藤さんは美しいですよ」
いつもならこれだけ褒められたら、嬉しくなるなり照れるなりするだろう。
しかし、今日の私にはただ、コンプレックスを刺激されるだけだった。
「ありがとうございます。
でも、私はいくら頑張ったって、姉には敵わないんです。
容姿も、頭も、性格も。
どんなに努力しても、姉が一番で私は二番。
そもそも、妹として生まれてきている時点で負けですよね」
ははっと自嘲し、グラスに残っていたお酒を一気に飲み干す。
「……初恋、だったんですよ。
姉の結婚相手」
酔っているな、とは思う。
こんな話、部長にする必要はない。
けれど口は勝手に動いていく。
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