第一章 一番にはなれない私

7/25
前へ
/131ページ
次へ
「はい。 今日はとても美しい……っと、これはセクハラですか?」 悪戯っぽく笑い、部長が片目をつぶってみせる。 おかげで一気に酔いが回ったかのように顔が熱くなった。 「いえ。 それに褒めていただいたのに悪いんですが、いくら着飾っても私には姉に敵わないので」 熱くなった顔を落ち着けようと、グラスを口に運ぶ。 今日の姉はアフロディーテも裸足で逃げだすほど美しかった。 もし、私が同じドレスを着て同じようにメイクしたとしても、あそこまで美しくはなれない。 「私はお姉さんを知りませんが、紀藤さんは美しいですよ」 いつもならこれだけ褒められたら、嬉しくなるなり照れるなりするだろう。 しかし、今日の私にはただ、コンプレックスを刺激されるだけだった。 「ありがとうございます。 でも、私はいくら頑張ったって、姉には敵わないんです。 容姿も、頭も、性格も。 どんなに努力しても、姉が一番で私は二番。 そもそも、妹として生まれてきている時点で負けですよね」 ははっと自嘲し、グラスに残っていたお酒を一気に飲み干す。 「……初恋、だったんですよ。 姉の結婚相手」 酔っているな、とは思う。 こんな話、部長にする必要はない。 けれど口は勝手に動いていく。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

647人が本棚に入れています
本棚に追加