第一章 一番にはなれない私

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だったら、無理なお願いをしても聞いてくれるだろうか。 「富士野部長」 顔を上げ、真っ直ぐに彼を見つめる。 私の真剣な声に何事か感じとったのか、部長は口へ運びかけたグラスをテーブルに戻し、姿勢を正した。 「はい」 「私があの人を忘れる手伝いを、してくれませんか」 これがなにを意味するかなんて、いまだにキスすら経験のない私だってわかっていた。 でも、裕司さんを想い続けたせいで大人になりきれないままのこの身体を捨てて、新しい恋へ向けて先に進みたい。 じっと私を見つめて黙ったままの部長が、なにを考えているのかわからない。 こんなことを頼まれて、迷惑だったんじゃ。 部長だって好きでもない女を、抱きたくないだろう。 そう気づくと猛烈な後悔が襲ってくる。 「あの」 「紀藤さんは」 今の発言は忘れてくれ、そう言おうとしたら同時に富士野部長が口を開いた。 「好きでもない私が相手で、後悔しませんか」 レンズの向こうに見える瞳は、怒っている。 きっと私が、自分を大事にしないからだ。 けれど同時に、哀れんでいるようにも見えた。 「……後悔、します」 「なら」 「でも、いいんです」 やめたほうがいいと部長が言う前にその言葉を制する。
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