第一章 一番にはなれない私

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その結果が同じでも、私はもっと早くに彼を吹っ切って、新しい恋に進めていたかもしれない。 だからもっと、自分に自信が、欲しい。 「わかった。 なら俺が、一番にしてやる」 右の口端をつり上げ、ニヤリと笑う富士野部長を、ただ見ていた。 話が終わったあと、部長はマンションまで私を送ってくれた。 「あの。 今日も眼鏡、違うんですね」 「ん? ああ」 部長の車は黒のSUVだった。 車体に付いているエンブレムはドイツの有名スポーツカーメーカーのものだ。 たぶん、社長の乗っている高級外車Cクラスよりも高い。 「こっちはプライベートで、会社でかけているのは仕事用」 「そうなんですね」 今日も彼は、黒縁ハーフリムの眼鏡をかけている。 さらにスリムフィットのVネック黒カットソーと白のスキニーパンツがそのスタイルのよさを強調していた。 「聞きたいのはそれだけか」 「えっ、あっ」 意地悪く、ニヤッと彼が笑う。 おかげで頬がかっと熱くなった。 たぶん、私が気になっていることなんてお見通しなんだ。 「会社のであれは対外用で、こっちが素に近い俺」 聞かなくても部長が、私の疑問に答えてくれる。 「それって、演技しているってことですか?」 私たちは部長にずっと欺かれていた?
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