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雪を頂く山々を遠くに眺め、初夏の芽が吹く街道を涼やかな風に押されて進んで行けば、くだんの村への入り口が見えて来た。
あれが最近耳にした『シャンティスの柱』の支える橋に違いない。
地方のゴシップ紙が取り上げた記事がもとで少しだけ地域が盛り上がっていると聞く。元ネタは眉唾であるし内容も信憑性の無い酷いものだが、ここに限らず観光地にある伝承とは所詮客寄せの造られた縁起ものばかりだろう。
それを責めるつもりはない。むしろ経済が回る事は領にとって益になるだろう。
今回このわたしがこの村を訪ねたのは何も、セルシア騎士団長官として嘘を暴こうだとか、それで利益を上げたものを検挙しようとか、そう言うものではない。そもそもこんな辺鄙な所に長官自らわざわざ出向いて調査する必要がある程セルシア騎士団は無能ではないのだから。
父上だ。
父上は大変厳しい方であるが、領民を愛するお心やその義理堅さはレア・ミネルウァでも有数だろう。その父上がシャンティス=フロイアーテと言う娘に褒美を突っぱねられた事に逆に感心し、本人にわからぬ形で礼が出来ないかと彼女の住むディナッカ村の村長に便りを出したところ、ならば彼女の住む養護施設に、ご息女に慰問に来て頂きたいとの返事があったらしい。
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