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「ねえ見て、由美。あそこ、桜が咲いてる!」
「本当だ。いつの間にか1年過ぎたんだね。」
自転車を押して歩く、いつもの帰り道。
隣を歩く咲良が突然駆け出したかと思えば、向かいの土手を指さして無邪気に笑っている。
「咲良は桜、好きなの?」
「ううん、嫌い!」
「なのにそんなに喜んでたの!?」
あまりにも嬉しそうに教えてくれたものだから「好きなんだろうな」と思ったのも束の間、元気一杯に断言されてしまった。
咲良は高校に入学して以来一番最初の、尚且つ一番仲の良い相手だが…未だによく分からない部分が多い。
「何?名前一緒だし…同族嫌悪みたいなもの?」
「違うよー!」
「桜をね?子供の時に食べたら全然美味しくなかったの!
私桜味のお菓子好きだったから、物凄くショックでショックで…!」
「あー、うん。たしかにね。
桜味のお菓子は美味しいよね。
…たしか桜味のお菓子には桜の葉っぱの成分が含まれてるんだったかな?」
「え!葉っぱの方だったの!
そっか~、じゃあ食べる所を間違えたという可能性もあるんだね…?
桜にはまだ挽回の可能性があるよ!」
「ちゃんと加工しないと美味しくないと思うよ?
虫とかもいるかもだし。」
「なーんだ、何重にも残念なやつめ。」
どうしても食べられない、と理解したのか咲良はつまらなさそうに口を尖らせた。
「帰りに向こうのコンビニ寄っていく?
先輩によると今年の桜わらび餅、当たりらしいよ。」
「え!それは気になる!食べたい食べたい!
あ、でも…その前に桜、見に行く?」
彼女の視線は再び興味を失ったはずの土手へと戻った。
「え?えっと…、食べるのと見るのは別だった?」
「ううん。
前に先輩がね、由美はサクラが好きなんだよって教えてくれたから。
由美は見たいかなーと思って!」
「だからいつ向こうの桜が咲くか、ずっと気になってたんだよね~」といつもの調子で笑う咲良。
「…じゃあ、せっかくだしちょっとだけ見に行ってもいい?
ついでに一緒に写真撮りたいかも…だから。」
「写真?いいよ!
あ、私髪跳ねてない?」
「ちょっと横、跳ねてるかも。
直してあげるからこっちにおいで---
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眠る前に、携帯の電源をもう一度入れる。
ホーム画面に映るのは満開には一足早い土手に咲く桜と、
…今より少しあどけない私達。
お守り代わりの写真に今日もこっそりと祈る。
始めて出会った入学式で小さく芽吹いたこの気持ち。
明日。卒業式の後には、無事花開かすことができますように。
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