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青木由香の計画
「旅行? お盆休みの?」
「そう、一泊だけしかできなくてゴメンだけど、温泉に行かない? 実はもう予約しちゃって」
一馬に見せられた旅館のホームページを見て、心臓が大きく音を立てた。
「素敵な旅館だね」
「でしょ? 由香が好きそうな旅館じゃない?」
お茶を淹れるためにキッチンに立つ一馬を見送りながら、そのホームページをもう一度確認する。
ああ、やはり……、この間行ったとこだわ、ここ。
旅館の人に顔を覚えられてたらと思うと気が気ではない。
慌てて近くの似たような旅館を探す。
「ねえ、一馬! こっちも良くない?」
「ん? ああ、そこもね、いいなと思ったんだけど満室で。さっきのとこは、由香的には気にいらなかったの?」
「そうじゃないけど」
「あ、誰かと行ったことあるから、とか?」
「ないよ~! あるわけないじゃん」
焦りながらお茶をすすると、あまりの熱さに舌を火傷した。
まさか、よね?
つい先日もだった。
ハルくんと前に行った美術館のチケットを買ってきた一馬。
偶然? それとも……?
じっとホームページから目を離せないでいた私の頭を一馬が不意に撫でてくれる。
「最近、由香が疲れたような顔してたからさ。いつも残業してて仕事大変そうだし。温泉で疲れがとれたらなあって、勝手に予約しちゃってごめんね。由香の意見聞いてからにしたら良かった。明日キャンセルしとくね」
申し訳なさそうにホームページを閉じた一馬に首を振った。
「行こうよ、うん! せっかく予約してくれたんでしょ? 行ってみたい」
「やった」
嬉しそうに目を細めて私を抱きしめる一馬を抱きしめ返す。
いつからだろう?
こうして抱きしめても、一馬に異性を感じなくなってしまったのは……。
ごめん、一馬、本当にごめんね。
罪悪感から強く抱きしめ返したら、キスを迫られる予感に。
「今、ちょうど生理中だから、旅行の時は周期大丈夫そう。露天風呂も入れちゃうなあ、良かった」
「そっか。じゃあ、温泉いっぱい入れるね」
良かったねと私をもう一度抱きしめてから、一馬は風呂に向かって行った。
今日は無理、触れられたくない。
スマホのロックを解除して、二人だけのトーク部屋のアプリを起動する。
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