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「離婚、されるんですか?」
探偵を使って二人のことを調べたのだという彼女。
だったらもう離婚を覚悟しているのだろう。
「……、したくはないんです。でも、きっといつか……、そう遠くない未来に、主人の方から離婚を言い渡されるはずです」
そう言うと彼女は俺にスマホのスクリーンショットを見せてくれた。
俺の知らないSNSの中で、繰り広げられる会話文。
『明日ね、夫が同僚とご飯食べに行くんだって。遅いんだって』
『へえ』
『……へえ、って。それだけ?』
『ん? 誘って欲しいとか?』
『ハルくんのイジワル!』
『じゃあさ? オレたちはもっと遅くなっちゃおっか』
『え?』
『終電乗り遅れちゃおうよ。オレも明日は急な飲み会ってことにする。ユカもそうしたら? ずっとユカに触れてないし、朝まで抱いていたい』
『やーん、ハルくんのえっち』
頭が痛くなってきた。
日付を見ると数日前、確かに由香は女友達と飲んでいて終電に遅れたと朝帰りをした日のことだろう。
『カラオケボックスで朝まで歌って、喉ガラガラになっちゃったあ』
なんて笑ってた由香に、蜂蜜入りの喉に優しい紅茶を淹れた俺って本当に馬鹿だな。
なにも気づいてなかった。
喉の痛みは一晩中の嬌声のせいかよ。
もう一つスクロールして見せてくれたものは。
『ユカと離れてるのが、辛いな』
『私もハルくんとずっと一緒にいたい』
『もう少しだけ待っててな。うちは子供がいないからさ、それを理由に別れられるはず』
『私は、どうしたらいい? すれ違い夫婦みたいにちょっとずつ夫からフェイドアウトしとこうか?』
『気づかれるなよ? オレが別れてからでいいから。あまりに時期が一緒だと会社でも疑われるだろ? でも、いつか二人で幸せになろうな』
『なる! ハルくんと幸せになりたい』
喉の奥から込み上げてきたものをコーヒーで流し込んだ。
「ふざけて、ますね」
静かに静かに怒りが降り積もっていく。
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