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ある裏通りの四つ角で、塀の影にふたりの男が潜んでいた。
「あの婆さんが見えるか」のっぽの方が言った。
「ああこっちに歩いてくるぜ。それがどうしたね?」ちびの方が言った。
「あの婆さん、鞄を持ってるだろ。きっと中に財布が入ってるはずだ。それを盗むんだよ」
「でも、どうやるんだい?」
「いいか、お前が婆さんにぶつかって転ばせる。その隙に俺が中から財布をかすめ盗るのさ」
「そう簡単にうまくいくかな?」
「なあに、どうせ耄碌婆さんだ。気づきゃしないって」
老婆がとぼとぼと四つ角の方に近づいてきた。
計画した通り、ふたりははさり気なく老婆に近づいていった。
ちびが勢いよくぶつかると、老婆は転んで鞄を落とした。
「ごめんなさい。よそ見をしてたもんで」ちびはそう言いながら、老婆が立ち上がるのに手を貸した。
「いえいいんですよ」老婆は言った。
老婆が気を取られている間に、のっぽの方はすばやく鞄の中を探り、あっという間に財布をぬきとった。
老婆は何も気づかない様子で、そのままその場から立ち去っていった。
老婆が立ち去る姿を見て、ふたりはほくそ笑んだ。計画成功だ。本当にこんなにうまくいくとは思わなかった。
だがその喜びは長続きしなかった。なぜなら、盗った財布が空っぽだったからだ。
その時、ふたりの背後で声がした。「すみません」
驚いたことに、振り返ると警官が立っていた。
「あなたたち、今お婆さんと話してましたよね」
「それが何か?」ちびが恐怖心を堪えながら言った。
「実はあの婆さん、ここらで有名なスリでしてね。あなたの財布は大丈夫ですか?」
ちびは息を呑んだ。慌ててポケットを探ると、自分の財布が消えていた。
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