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「…白浜さん?」
そう戸川に声を掛けられた気がした。
けれど、俺は返事を返せれず、息もできないままだった。
見開いたままの目が4月のまだ冷たい夜風にじわじわと乾かされていくのがわかった…。
「あの…白浜課長?」
今度ははっきりとそう戸川が声を掛けてきた。
その声に…その名前に…俺の名前に反応したかのようにこちらを見てきたそいつとバチリと視線が合わさった。
そらしてしまおうか…。
そう思った時、そいつの口元が妖しく綻んだ。
「…久しぶり」
距離はそこそこにあったし、その声は大きくはなかった。
なのにその声は俺の耳に確かに届き、戸川の耳にも届いたようで戸川を戸惑わせていた。
いや、一番戸惑っていたのは…。
「お…前…なんで? 何…してんの?」
俺の口からやっと出たその声は呻き声のようだった。
そして、それを聞いたそいつはクスクスと笑っていた。
それは8年前のあの日と変わらない様子で…。
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