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「やっぱり白浜さんはいいαですね。俺が居るからって自分も居残り…なぁ~んて」
荷物を持ち、エレベーターに乗り込むと同時にそう言われた俺は気まずくなっていた。
「別に気を遣ったとかじゃないから…」
俺はそう言って一階のボタンを押し、他に乗る人が居ないことを確認し、閉じるボタンを押してその指示通りに動きだしたエレベーターに感心させられていた。
「だから『いいα』なんですよ」
そう言ってご機嫌そうに『くふふ…』と笑った戸川に俺は昼間の問いを投げ掛けてみようと思った。
「あのさ…昼間に言ってた『まともなα』って…どういう意味?」
そう問いを投げ掛けた瞬間…だった。
エレベーター内の空気が凍てついた…。
それは暑い夏が一瞬にして極寒の真冬になったかのように…。
「…この会社の上層部のαは無能なケダモノの集まり…そう答えれば間違いはないかもですね」
そう言って鼻だけで笑った戸川は隠す気もないようにピリつき、イラついていた。
「上層部のαが…無能なケダモノ?」
俺はそう訊ね返し、戸惑っていた。
俺の勤めている会社は本社の他に数十の子会社がある。
俺は今、その会社の本社にいるわけだが…決して小さな会社ではないし、世間的にも名の知られている会社だ。
だからこそ戸川の言葉に戸惑った。
「ええ…。あ、着きましたよ?」
そう言ってニコリと笑んだ戸川はもうピリついてもイラついてもいなかった。
だけれど…どこか…。
「…白浜さんはきっとそう言うの…許せない人だろうから…」
戸川はそう呟いた。
俺はそれを無視した。
それはなんとなく…本当になんとなく…だった…。
その判断がいずれ波紋を…大津波を呼ぶとも知らずに…。
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