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廊下に出た薫は隣の部屋の鍵を開け入っていく。
そこには大きなモニターがあり、今出たばかりの薫の部屋が映し出されている。
ベッドに俊輔が寝ているところを見ると、今現在の映像なのだと分かる。
そしてモニターの前の椅子に座ると、薫は満足そうに微笑んだ。
モニターの周りには俊輔の写真が所狭しと飾られている。
しかも――最近の写真ばかりでは無い。
薫はキーボードを操作するとベッドの上の俊輔が一番見えやすい様にカメラのズームを変えた。
俊輔の為にだけ全て取り付けた。
俊輔が来た日は全て録画して、いつでも見られるようにしてある。
カメラの調節が終わると部屋を出て再び鍵をかけた。
この部屋を開けられるのは薫1人だ。
そして今度は俊輔の元へ戻るとベッドのすぐ横の床に座り俊輔の寝顔を見つめる───。
――どれだけ見ても見足りない――……。
小学生の頃から俊輔に対して好意を持っていた。
俊輔だけは何時でも優しく、自分を受け入れてくれたから……。
卒業してからは中学が別なこともあり、会うことも無くなったが、それが中二の春、偶然道で行き会った。
俊輔は友達数人と歩いていたし、どうせ自分には気付かないだろう…と、通り過ぎようとした薫に「望月くん!?」と俊輔から声を掛けてきたのだ。
しかし自分は「久しぶり!元気?」と笑顔を向ける俊輔に急なことで何も返せなかった。
その後すぐ友達に呼ばれ「バイバイ、またね」と行ってしまったが……、薫は嬉しかった。
そしてたったそれだけの事が『好意』を『執着』へと変えた。
医師である母親はほとんど家には居ない代わりに薫に好きなだけ金を使わせた。
母が興味があるのは、薫ではなく薫の成績だけだった。
まだ中学生の薫は探偵を雇い、俊輔のことを調べさ背、そこで俊輔が水恐怖症があることも知ったのだ。
俊輔がバイトを始めたのを知って必要もないのに同じ所でバイト始め、俊輔が再び自分を受け入れてくれるのを待ち続けた。
薫は俊輔の髪を優しく撫で、その指が頬へ、そして唇へと移ってく。
うっすらと開いた唇を指でなぞる。
「柔らかい…」
薫がポツリと呟き、まるで起きる気配のない俊輔を見つめる。
俊輔がそう簡単に起きる筈がない事など薫が一番理解していた。
コーヒーに液状の睡眠導入剤を入れたからだ。
早ければ10分もしないで効いてくる。
短時間作用型のものを少量だから2、3時間もすれば効き目は薄れる。
薫は俊輔のシャツのボタンに手をかけ、ゆっくりとひとつひとつ外していく――。
するとハリのあるキレイな肌が現れ、薫は愛おしそうにその肌に指を這わせた。
「……下着は着ない主義か…」
ボタンが全て外され俊輔の胸が露になると小さくポツリと呟いた。
そして鎖骨の少し下に小さなホクロを見つけると、薫は嬉しそうに微笑み指でその小さなホクロをそっと撫でた。
「こんな所にホクロがあるんだ…」
どんな小さなことでも知りたかったし、知れば嬉しくなる。
晒された俊輔の胸に薫は自分の頬をそっと預た。
柔らかい皮膚の向こうから力強い心臓の音が聞こえる。
しばらくその音を聞いてから再び俊輔の顔を見つめ、その柔らかさを確かめる様にもう一度指で唇に触れた。
そしてその指が薄っすらと開いた唇の中へと入っていく。
温かく水気を帯びた舌が触れ、薫は自分の身体が熱くなるのを感じた。
それを楽しむように舌を撫でていた指が抜かれ、今度はゆっくりと自分の唇を重ねた。
俊輔の吐く息が自分の口から入ってくるのが分かって心臓が高鳴る……。
誰かとキスをするのは初めてだった。
夢にまで見た俊輔にやっと触れている。
その肌を唇を想像して欲望を吐き出したことなど、既に数え切れない。
薫は何度かキス繰り返し、その唇を首筋へと這わせた。
温かく艶やかな肌を舐め、強く吸い付くようなキスをする──。
「…ん、」
すると俊輔の口から声とも息ともつかないモノが漏れ、薫は止まってその様子を伺った。
しかしすぐにまた寝息が聞こえ始める。
薫はホッとしたようにため息を吐くと、再び俊輔の肌へ舌を這わせキスをした。
さっきよりまだ強く……。
「───ぁ……んッ…」
そして今度は声と一緒に艶やかな吐息が漏れた。
その声に薫の顔が熱くなった。
自分のキスで俊輔が感じているのだ。
シャツから肩を出し、そこにもキスをして軽く歯を立ててみる。
「──あ……んンッ…」
すると俊輔の声がそれらしく顕著に変わった。
薫はカッと熱くなるの頭のまま俊輔の首に肩にキスを重ね、舌を這わせた。
その度に俊輔の身体がビクッと反応して声を上げる。
薫は身体中熱くなるのを感じた。
中学時代、俊輔に何人かの彼女がいたのも知っている。
その中の2人とはそれなりの『深い中』だったのも。
薫は立ち上がると俊輔の体に馬乗りになりその寝顔を見下ろした。
───今なら…………。
薫の手が俊輔のデニムのボタンにかかる。
しかし、それはダメだと自分に言い聞かせた。
俊輔は少しづつではあるが自分を信頼し始めている。
信頼を得る為に、俊輔が望む環境を作り、『広場恐怖症』と嘘までついた。
今日の目的は俊輔の身体に『自分の跡』を残すこと。
明日、幼なじみとプール遊びに行くことも知っていた。
そして『仲の良い弟』も一緒に行くことも。
薫は自分を落ち着かせる様に深呼吸すると、俊輔のシャツのボタンをひとつひとつ戻していく。
そして何も知らない寝顔にもう一度キスをすると、俊輔の荷物から鍵を取り出し薫は部屋を出た。
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