変化

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雲一つない真っ青な空が広がり、まだ午前中だと言うのに肌を刺すような日差しが降り注いでいる。 まさに夏らしいプール日和と言っていい日だ。 様々なプールがいくつもあり、あちらこちらから楽しげな声や歓声が響く。 大きなボートで滑るウォータースライダーもあれば、小さい子供を遊ばせるような、浅く小さな噴水があるプールまで、まだ10時だと言うのにたくさんの人で賑わっていた。 そして着替えを終え結衣達を待っている俊輔の顔は、この空に勝らずとも、劣らない程青くなっている……。 葵は俊輔の隣から首元にチラッと視線を向けた。 2人とも海パン姿だが、俊輔はラッシュガードを羽織っている。 『謎のアザ』が丸見えだから…と葵に着せられていた。 「俺がいるから心配すんなよ」 葵が隣から明るく声を掛けた。俊輔の不安が聞くでもなく手に取る様に分かる。 「…………解ってる」 しかし俊輔は蚊の鳴くような声でやっと答えた。 朝から抗不安薬を飲んできたから大丈夫だと目を瞑り自分に言い聞かせる。 救いなのはこの晴天のせいで芋洗い状態のプールは『水』が大して見えないこと……。 「俊!あっち見てみ」 突然葵がプールとは逆方向を指さした。 見ると結衣が言ってた様にカラフルなアスレチックがあり、確かにカップルらしき男女が何組もいるのが分かる。 「水着でアスレチックとか……エロすぎでしょ」 葵が耳元で言ってニヤっと笑い 「バカ」 つられて俊輔も笑った。 葵がこの手の冗談を言うことは無い。自分の気を紛らわそうとしてくれているのだと解る。 アスレチックの下には浅い川のように水が流れてるだけで、俊輔はそれを見て僅かだがホッとした。 ───確かにあそこなら大丈夫かも…。 「お待たせ!」 すると、背中から声を掛けられ2人は振り返った。 青色のレースのが付いたビキニから半分以上が出ているのではないかと思わせる程大きな胸に思わず目がいく…………。 さすがに自分からプールに誘うだけあってその下の細くくびれたウエストもまた女性らしく、2人が一瞬で顔を赤くする程のスタイルのあずみが笑顔で立っていた。 2人の視線がこちらに向いたのが分かると 「ほら!結衣!」 今度はあずみの後ろに隠れるようにしていた結衣を自分の前へ押し出した。 真っ白なフリルの着いたビキニに同じ様にフリルの着いたパンツ。 小柄で細いと思っていた結衣の胸の谷間が、あずみほどではないにしろ、思いの外あって俊輔は目のやり場に困った。 薄らと化粧もしていて、普段と雰囲気が違うのも、なんだか妙に意識させた。 俯いたまま何も言わない結衣が、それも普段と違って……俊輔と2人の間の空気も微妙に“いつも”と違っている。 「俊輔くん、結衣可愛いでしょ!」 「え!?」 いきなり振られて戸惑う俊輔を、結衣も恥ずかしそうにチラッと視線をむける。 「─あ──えっと………可愛い…と…思うよ……」 妙に恥ずかしくて、何も変わらない日差しが急に暑く感じる。 しかし……2人のやり取りも、微妙に変わった空気も気に入らない葵は 「…………馬子にも衣装…」 ボソッと呟き 「うるさい、ブラコン」 これはいつも通り、結衣も呟く様に返した……。 「ね!せっかくだからウォータースライダー行こ!!」 そう言って、既に長蛇の列になっている方を指さすあずみを結衣が慌てて止めた。 「最初はのんびり遊ぼ!まず水に慣れないと!」 まさか一発目から来るとは思いもしなかった。 「──はぁ!? なにそれ!? おばあちゃんみたいなこと言わないでよ」 笑うあずみに 「あー…俺あれ行きたいかも」 葵があずみと真逆の方を指さした。 その指を辿ると、小さな噴水がついた子供用のプールが見える。 と言うより、それしか見えない……。 「え…」 眉を顰めるあずみを横目に、葵は構わず子供用プールへと向かって歩いていった。 「……葵くんて…少し変わってる?」 その背中を見送りながら、あずみが結衣に小声で尋ねると、結衣は少し困った様に「ははは…」と笑い 「まぁ……とりあえず行こ!」あずみを引っ張って葵の後を追った。 残された俊輔は、一人ため息を吐いた。 自分の為に葵も結衣も気を遣ってくれている。 すると少し頭がぼーっとしてきて、クスリが効いてきているのが分かった。 「早いとこ水に慣れなきゃ…」 そう呟くと俊輔も急いで3人の後を追った。 結衣とあずみ、それと数人の子供が水をかけあって遊んでいる。 初め、子供用のプールを嫌がっていたあずみも遊び出せば周りの子供も巻き込み楽しんでいるようだった。 俊輔は葵とそれを座って眺めていた。 子供と遊ぶ結衣がやっと“いつも通り”に見えて俊輔はホッとしていた。それに座ると腰の辺りまでくる水にも何とか慣れてきた。 薬のせいもあって恐怖感はない。 「………めっちゃ胸揺れてますね」 葵の視線があずみを追っているのが分かる。 「…………お前がそんな事言うの珍しいな……」 「……そうか?…俺も一応年頃なんですけどね」 そう言うと 「ああいうの見ると、したくなるわけ?」 視線をあずみに向けたまま葵が俊輔に向けてボソッと口にした。 「──バっ……!突然何言ってんの!?」 「いやぁ素朴な疑問?…、だって俊、女の子大好きでしょ?」 今度はゆっくりと俊輔の首の辺りへ葵が視線を向けると 「……だから…、別にそういう訳じゃ…。それにこれは違うんだって!」 俊輔が慌ててその辺りを手で覆った。 「俺だったら…好きな人と以外したくないけどな…」 葵の言葉にそれ以上の言葉を飲み込んだ。 過去2人だけ経験があった。 付き合ってはいたが好きではなかった。 誘われるままにセックスしただけだった。 「そろそろプール行こうよ!」 黙り込む2人に、あずみが遠くから声をかけた。 その後ろでは結衣がすまなそうにしている。 「そうだね」 無理に笑いながら答えた俊輔の言葉に、2人は立ち上がると既にびしょびしょになっている結衣とあずみの元へ向かった。
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