76人が本棚に入れています
本棚に追加
「バカ俊ッ!」
葵の怒りに部屋のドアが大きな音を立て、それでも腹の虫が収まらずに、葵はドアに向かって思い切り枕を投げつけた。
『葵には関係ないからだよ!』
───そんなこと…………言われなくても解ってるよ…………
それでも心配してしまうのだ。
自分がいない所で俊輔が辛い思いをしていたのだと思うだけで、放っておけなくなる。
本当なら今だって抱きしめたい。
以前のように、「大丈夫」だと「側にいる」と結衣に頼むのではなく、自分が隣にいたかった。
「……俊のバカ…………」
葵はベッドに倒れ込むと、夏用の布団を思い切り抱きしめた。
俊輔の薫を庇うような態度に思わずカッとした。
発作の理由を言わない事にも腹が立った。
それで、“そんなことで”、発作の後の不安な俊輔を追い詰めた。
守りたい筈の俊輔を余計傷付けるようなことをしてしまった。
───バカは俺だ……調子の悪い俊を怒鳴って…喧嘩して……
不意に子どもの頃、こっそりと俊輔の部屋に忍び込んだ時のことを思い出した。
ベッドの中で小さく丸まって泣いていた姿。
ただ守りたいと思った記憶。
───俺が好きになんかなったから…………
消えるどころか積もり続ける想いを隠すように、葵は固く瞼を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!