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「なあ、それお前が描いたの?」
いつの間にか御堂くんは私のキャンバスを覗き込んでいた。大きなキャンバスに描きかけの絵。毎日、ここで色を重ねている。
「え、うん。そうだけど……」
「へえ、綺麗だな」
御堂くんはニッと笑ってこちらを見た。
瞬間、ドキッと心臓が脈打った。
絵を褒められているだけなのにまるで自分が褒められたかのように感じて私は慌てて我に返る。
違う違う。
御堂くんは私に対して綺麗と言ったんじゃなくて、絵を褒めてくれているのだ。
褒められるのは悪くない。
むしろ嬉しい。
嬉しくて胸がぎゅんとなる。
それに、ふと去年のことを思い出した。
御堂くんが私に言ってくれたこと。
――『俺はいいと思うけど』
あの一言があのときの私をどれだけ救ってくれたか。今でもずっと心に残っている。
一年生のとき、美容専門学校に通っているお姉ちゃんの練習台にされた私は、巷で人気だという髪型にされ前髪をざっくりと落とされた。
鏡越しに、「あ、やば」と呟いたお姉ちゃんの口元はしっかり読み取れた。「大丈夫、今これめっちゃ人気だから」なんて取り繕いながらワックスで必死に整えられる自分の姿を、なすすべもなくぼんやり眺めつつ落ち込んだんだ。だって明らかに失敗だったし、まったく似合ってなかったし。
でもどうすることもできなくて、仕方なくそのまま学校へ行ったけど、やっぱり笑われてしまって。
そんなときに御堂くんが言ってくれた。
『俺はいいと思うけど』
視界が開けるってこういうことなのかと思った。急に心が晴れた感じに胸が熱くなる。御堂くんの言葉は絶大で、おかげでそれから笑われることなく日々を過ごすことができた。
単純にもほどがあるけれど、あのときから私は御堂くんのことを好きになったんだ――。
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