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私はめまいがする思いで必死に意識を保つ。
嘘でしょ。
私の存在薄すぎじゃない。二年も同じクラスなのに。しかも私の前髪、俺はいいと思うって言ってくれたじゃない。それすらも忘れられてるっていうことだよね。
ああ、なんか悲しくなってきた。
「……じゃあ、私の名前も知らないってこと?」
「芋子?」
「違います!」
ため息をつきたくなるこのやり取りに、私はがっくりと肩を落とした。
そりゃ私は地味だしどちらかというと大人しめだけど、顔すら認識されていないとか、本当にショック。まあ、御堂くんの人気に比べたら私なんかミジンコレベルだけどさ、それでもさ、もうちょっとあるじゃない?
「で、名前教えろよ」
御堂くんは椅子にどっかり腰を下ろし、頬杖を付きながら楽しそうに言う。なんでそんなに上から目線で偉そうなんだろう。
私は少しむっとしながら答える。
「秋山千花子です」
「ふーん、でさ、芋子」
だからなんでそんな小野妹子みたいな。
御堂くんは私の話なんてちっとも聞いていない。
「メガネ外してみてよ」
「へっ? な、なんで?」
「見てみたいから。芋子の顔」
意味不明なんですけど。
私の顔を見てどうするっていうのよ。
それにそんなことを言われると緊張すると言うかなんというか。
御堂くんはその端正な顔でじいっと私を見る。
「えっと……あっ」
躊躇っているとすっと手が伸びてきて軽やかにメガネが外される。視界がぼやけた。
私の顔を覗き込んだ御堂くんは口の端を上げる。ぼやけた視界でも御堂くんはハッキリ見えた。それくらい、彼は私に顔を近づけていたということで……。
「へえ、可愛い顔してんじゃん」
ボンっと音がして頭から湯気が出たと思う。
真っ赤になった私は金魚みたいに口をパクパクさせた。
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