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か、か、か、か、可愛いって?
バックンバックンと心臓が壊れそうになっている私に御堂くんは爽やかに笑い、もう一度眼鏡をかけ直してくれた。
ハッキリくっきりした視界の中の御堂くんは「また来る」と言い残して何事もなかったかのように美術室を出ていった。
私はしばらくそのまま動けなかった。
すーはー
すーはー
ちょっと落ち着こう。
私は筆を置いてその場にへたり込む。
胸のあたりを押さえると、まだドキドキと心臓がうるさい。
本当に本当にびっくりした。
あの御堂くんがさっきまで私とおしゃべりしていたんだから。
絶大な人気を誇る御堂薫くんはクラスでも中心的な存在。御堂くんのことを好きな女子もたくさんいる。私も例にもれずその一人で――。
だけど私なんて地味だし眼鏡だし、相手にされないだろうなとは思っていた。同じクラスでいられるだけありがたい。私の存在を少しでも知っててもらうだけでいいと思っていたのに。
……まあ、実際はまったく認識されていなくて奈落に突き落とされた気さえしたけど。
でも――。
こ、こんなことってあるんだぁー。
私はまたほうっと息を吐いた。
落ち着いてくるとなんだか得した気分になった。御堂くんとおしゃべりができただけでもテンションが上がる。
ん?
そういえば御堂くん、また来るって言っていたような……?
聞き間違いかな?
まあ、いっか。
私は描きかけのキャンバスに向き合う。
筆で色を付けていく作業がいつもよりも軽やかな気がした。
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