3/3
前へ
/18ページ
次へ
「美玲」  自宅玄関の前までやってくると、そこには別れたはずの臣がいた。 「臣君……どうして?」  臣は玄関の扉の前で小さく座り込んでいた。   「……鍵だけは直接渡そうと思って。インターホン押しても全然出てこないから、とうとう居留守使われたかと思ったわ」 「あ……ごめん」  悲しそうに笑う臣から、美玲は目を逸らす。あの電話を最後に、美玲は臣と会っていなかった。 (どうしよう……なにを話せば)   「鍵はポストに入ってるから。今ちょうど帰ろうと思って、入れたとこ」 「……そっか。ごめんね。ありがとう」 「泣いてるの?」 「あ、いや、これは……」  慌てて袖口で涙を拭う。 「……もしかして、あの男に泣かされたのか?」  臣が美玲の顔を覗き込み、眉を寄せる。   「ち、違うよ。疲れが溜まってて、ちょっと目が痛かっただけ。泣いてなんかないよ」 「……相変わらず嘘が下手だな」  臣は美玲を見つめ、小さく笑う。 「……ふられた?」 「……うん」 「……なら、俺とまた」  臣の両手が美玲の肩に置かれる。しかし、美玲はその手をゆっくりと剥がすと、首を横に振った。 「そんなことできないよ。覚悟決めて別れたんだから。そんな都合のいいことできない」 「都合なんてどうだっていい……美玲、俺はお前が」 「藤咲さん!」  臣の言葉を遮るように、突然背後から声がした。その声は美玲がよく知っていて、そして、美玲が誰よりも求めていた声だ。 「朝霞……さん?」 「藤咲さん……話をさせて」  怜士は肩で息をしている。どうやら美玲と話すため、走って追いかけてきてくれたようだ。 「話……」 (正直まだふられたばかりで、心の準備ができていないのに) 「……聞かなきゃダメですか? 今は一人になりたいです」 「それでも、聞いてほしい」  怜士の真っ直ぐな瞳に、美玲は仕方なく頷いた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加