交易の町

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本来高く買ってくれるならありがたいだけなのだろうが、あまりにあからさまだと何か裏があると思ってしまう。 そんな疑いの目を向けられて、おじさんは苦笑いした。 「何も悪いことなんて考えちゃないよ。それにむしろこれでも安い方さ。そりゃあフルーツとしてのシュプレーナの価格で考えれば高すぎかもしれんがね。……あまり知られていないが、実はコイツは薬にもなるんだ」 曰く、これからの時期に患者が急増する流行り病に効く薬になるそうだ。 風土病でもあるのか、この辺りの地域で爆発的に広がるらしい。 ここ数年はそれに対して特効薬とでもいうべきものがなかったため、対処療法で乗り切るしかなく、犠牲になるものも多かったという。 それが、数年前にこのシュプレーナから抽出する成分がこの病に効くことが分かった。 しかしシュプレーナ自体が手に入りやすいとは言えない代物で、下手にこの情報が広まれば危険を冒して採取しに行く者がいるかもしれないということで秘匿されているらしい。 「俺は果物屋だからな、シュプレーナが手に入ったら売って欲しいっていう医者からその話を聞いたんだ。とはいえ、なかなか入手できなかったんだ。これで今年は病で苦しむ患者が少なくて済むだろうよ」
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