真実の鏡

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「それでは僕達は『愚者の称号』ではなく、別の『夢』を求めているということですか?」  リコスが問いかけると、マスターは溜息をついて、肩をすくめた。 「そういうことじゃな……それでどうする? お前達はまんまと大賢者の罠に嵌り、愚者の称号『ザ・フール』を諦め、別の道へと進むのか、否か」  三人は互いの顔を見合わせると頷き合い、アルコがマスターの問いに答えた。 「はい、我々は新たな夢を持つことができた。愚者の称号より、自分の夢を叶える道を歩もうと思います」 「そうか、ならば儂が裏切られたということじゃな……。それではすぐにここを立ち去るがよい。二度とこのギルドに足を踏み入れることは許さん」  三人は立ち上がると、扉に向かった。  扉を開き外の暗闇へと歩き出したが、最後にラウナは振り向きマスターに呟きかけた。 「マスター、ギルドは辞めてもあなたのことは本当の親だと思って、いつまでもお慕いしています。そのことだけは忘れないでくださいね」  そう告げると三人は扉を閉じて、新たな冒険へと繋がる階段を一段一段上っていった。  一人残されたマスターは、三人の気配が消えるのを確かめると、ふふと不穏な笑みをこぼした。 「まだまだ修行が足りないのう、『真実の鏡』など嘘八百。儂は『変幻の愚者』、あれらはすべて儂が変化(へんげ)した別の姿じゃ。お前達の夢が別にあることは薄々感じておった、儂はただその背中を押してやっただけ。危険を顧みず、己の夢を実現させるために自由奔放に歩み続けることこそが、愚者のあるべき姿。真の愚者は時として賢者でもある。『ザ・フール』の称号は……しばらくお預けじゃな」  マスターが白い花を天井の暗がりに放ると、崖の上に立つ放浪者の描かれた一枚のカードに変化した。  そのカードがヒラヒラと円卓の上に裏返しで落ちると、マスターの姿はどこにも見えなくなった。
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