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マスターは揺らす花をピタリと止めると横に置き、手を組むと肘をゆっくりと円卓の上に乗せた。
「皆も知っての通り、この愚者ギルド『トリックスターズ』は世界を動かすこともできる闇組織。時に国王、司教、騎士団から密命を受け、人々を欺き世の均衡を保つことを生業としておる。お前達はその中でも精鋭なるメンバーだ」
「それは幼少の頃、路頭に迷っていた私達を引き取り、ここまで鍛錬してくれたマスターのおかげよ。今では傀盗アルコ、嘘匠リコス、誑神ラウナの異名を持つまでになった」
「そこで相談じゃ。若いお前達と違い、儂は見ての通りただの老いぼれ。そろそろ引退を考えていてな、お前達三人のうちから誰かにマスターを引き継いでもらいたいと考えておる」
マスターからの提案に三人は驚きの表情を見せ、それまでの静けさはざわつき声で濁された。
「『ザ・フール』の称号を持つあなたしか、マスターには相応しくないと思いますが」
「今となっては名ばかりで、何もしておらんからのう。その称号も譲ろうと思っておる」
ザ・フール——愚者そのものを表す言葉。それはギルドのメンバーが目指す最終目標、三人はその言葉にそれぞれの想いを巡らせた。
「それで……誰に譲りたいと思っているんですか、マスター?」
リコスは置かれた花を両手で覆い隠し、手を広げると白い鳩がパタパタと羽ばたいた。
「うむ、それを決めるためにお前達にあるクエストに挑んでみてもらいたいと思っておる。東の森に潜んでいると言われる……大賢者を知っておるか?」
「たしか北の谷に棲む獣魔王すら退治したと言われる伝説の賢者ですよね?」
「そうじゃ、賢者は我々愚者と相対する者。じゃが、年齢不詳で素性がまったくわかっておらん。お前達に三日間の猶予を与える。それぞれ賢者を欺き、その正体を暴いてみせよ。それができた者に最高の称号を与えよう」
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