傀盗の愚者

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傀盗の愚者

 さらにその翌日。武器商人の乗る馬車が、東の森の一本道を走っていた。  でこぼこの砂利道(じゃりみち)を進むと、やがて目の前に大きな屋敷が見えてきた。鉄柵の門扉が開かれていたので、そのまま屋敷前の広場まで馬車を乗りつけた。  広場は豊かな緑に囲まれ、丸や四角の幾何学造形で綺麗に剪定されたツゲの木がアクセントを添えていた。  武器商人が馬車を下りると、庭の手入れをしていた使用人らしき老人が近寄ってきた。 「おや、お客様とは珍しい。ようこそいらっしゃいました」  老人がお辞儀すると、武器商人は屋敷を眺めながら話を始めた。 「これだけ立派なお屋敷に住まわれているということは、ひょっとして屋敷のご主人は……大賢者様でしょうか。お話したいことがあるので、お呼びいただけますか?」 「私がこの屋敷の主人ですが……はて、ご用件は何でしょう?」 「これは失礼しました。おそらくたくさんの宝物(ほうもつ)をお持ちでしょう。物騒なご時世なので、盗賊に襲われるかもしれません。屋敷を守るために弓矢や刀剣などいかがです? 馬車に武具を積んでおります、お安くしておきますよ」 「たしかに私には宝物だが……他者にとっては全く価値のない物なので心配には及びません」 「……その宝を見せていただけますか」 「興味を持っていただけたのですか! それでは喜んでご案内いたしましょう」  武器商人は価値があるものであれば、夜にでも忍び込み、盗んでやろうと考えていた。  両開きの屋敷の扉が開かれると、武器商人の予想を遥かに超える巨大な構造物が、目に飛び込んできた。 「こ、この奇っ怪な物は何なのですか?」  黄ばんだ太い骨がいくつも連なり、見たことのない大きな獣の造形に、武器商人は唖然とした表情で見上げた。 「これは……太古のドラゴン、恐竜の化石です」 「化石?」 「そうです、長い年月を経て石と化した恐竜の骨を集めて、組み上げたものです。私は考古学を研究しているので」 「考古学……」 「今何故このような世界になったのかを知るには、過去の長い歴史を探ることが一番。これは最古のダンジョンから掘り当てたものです」  主人の案内で屋敷内を見て回ると、他にも大昔の錆びた聖剣、カビの生えた聖杯、今にもぼろぼろになりそうな古代魔導書などが陳列されていた。 「たしかに売り物にはならなそうですが、非常に貴重な物ばかりですね……」 「そうでしょう? 世界中のダンジョンを巡って遺物を発掘し、太古の冒険譚に想像を膨らます。これほどわくわくすることはありません」  その物語に比べれば、私の怪盗談など取るに足らないことかもしれない——と武器商人は感じた。  この武器商人は、『傀盗の愚者』アルコの偽りの姿であった。
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