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「そうよ! あのクストディオに任せておいたら何も進展しないからって!」
説明されても分からないことが増えていくだけだった。
意味がわからないなぁ。
「最初から説明しますわね」
クスクスと笑っているエメリナが口を開いた。
「そもそもクストディオ、フアン、そして私は幼馴染なのです。最近はそこにロイダも加わることが多く、仲良くしています。そこで先日、フアンから聞きました。クストディオにいい人ができたようだ、と」
「はい?」
「私としても、あなたのような可愛らしい方をクストディオが気に入ってくれたことが嬉しいのです。今までのクストディオは人に対する興味も関心も本当に最低限でしたから」
「はぁ」
「この私が彼と仲良くなるために払った努力は大きかったのよ! あなたと違ってね」
ロイダが自慢気にいう。
エメリナはお茶で口を湿らせてから続けた。
「そこへあなたが現れた。私もフアンも喜びました。あのクストディオにもついに心を許せる相手ができたのだ、と」
なぜ、そういう解釈になるのだろうか?
「あの、私はただのメイドなのですが……」
アイナは控えめに主張した。エメリナは控えめにその主張を聞かなかったことにした。
「そこでフアンからの提案なのですが、一緒に観劇にでも出かけよう、と」
「そ、そんな。困ります」
「もちろん、あなたみたいな小娘を最初からオペラなんかに連れていく気はないわよ。最初はそうね。マナーもそれほどいらないはずだし、サーカスとかいいかもしれないわね!」
「いえ、マナーの前に私はメイドですし、服も持っていませんし」
貴族の方々と観劇に行くなんて緊張で倒れてしまう。なんとか回避したい。
「そうそれです。フアンが言うのですが、クストディオに任せておいてはいつまでたっても話が進まない。だから、代わりに服を選んでやってくれないか、と言われたんですよ」
エメリナはにっこりと微笑んだ。
「だからこうしてエメリナと私が出向いてきたんじゃない! 光栄に思いなさい」
「えっ、いや。その、そ、そうだ。私、洗濯の途中なので」
「大丈夫よ! 執事の許可は取ってあるわ。観念なさい!」
ロイダは高らかに宣言したのだった。
そうして客室は服と小物、靴、宝飾品で埋まった。
エメリナとロイダはそれぞれが贔屓にしている出入りの商人たちを引き連れてきていたのだ。
別室で待機していた彼らはそれそれが一押しの商品を客間に持ち込むと、三人に見せてくる。
夜会服、街に来ていけるような普段着、夜会用の宝飾品。ハイヒールにローファー、ハンドバッグ……。
ところ狭しと並ぶそれらを見てアイナは目をグルグルと回していた。
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