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炎の中で目が覚めて
熱い! 誰か助けて!!
アイナは炎の中を逃げ惑っていた。
アイナが目覚めた時、炎はすでに織物工場の宿舎を包んでいた。
逃げなきゃ! と無我夢中でアイナはベッドから這い出した。
黒煙が建物中を満たしており、呼吸をすると熱と共に煙を吸い込んでしまう。
目も痛い。
涙と煙でよく見えない中、アイナは記憶を頼りに出口を求めて歩いていた。
「ゴホッ、ゴホッ……。だ、誰か、助けて」
か細い声で助けを求める。
壁にそって、少しでも煙の少ない場所を選んで歩いた。
煙で喉が痛い。
どうして、火事なんて起きているの?
火なんて使っていないはずなのに!
もう少し、もう少しで玄関のはず。
煙で視界が悪い中、壁をつたい手探りで前と進む。
「あっ」
何かにつまづいて転んでしまった。
柔らかいそれを見てみれば、倒れているのは人だった。
「大丈夫!?」
苦悶の表情で倒れている人を揺すってみるが反応がない。
助けている場合じゃない、いや、見捨てるなんて……。でもどうしよう。
「おい、……! いるぞ……!」
混乱した頭で身動きができないでいると、声が聞こえてきた。
助けが来たんだ。
「ここ! ここです! 助けて」
アイナは力を込めて叫んだ。
助けて! 助けて!
チラリ、と炎の中から青白い光が見えた。
「魔導器が反応しているぞ! 輝石産みがいるんだ! 探せ!」
「……様のご命令だ! 輝石産みを一人も逃すな!」
炎の向こうから聞こえてくる声にアイナの希望は一瞬で絶望に塗り変わった。
輝石産みを探している! 捕まっちゃったら、また、売り飛ばされてしまう!
アイナは輝石産みだった。
火事の只中にいるのも忘れて、アイナの脳裏には故郷で誘拐された時のことが蘇ってくる。
怖い!
見つかっちゃいけない。
また、売り飛ばされるのは嫌! 逃げなきゃ!
アイナは反射的にかけだしていた。
パニックになったアイナは炎の中を逃げ惑う。
転んで足を捻挫し、落ちてきた火の粉で顔を火傷する。
熱い! 熱い!
どこにも、出口が見えない。
ふと、風を感じて上を見上げれば屋根が燃え落ちたのかポッカリと夜空が見えていた。
翼を持たないアイナはただ見上げることしかできない。
「誰か、助けて!」
アイナが叫んだ。
「大丈夫だ」
頭上から落ち着いた響きの声がした。
「えっ」
アイナが見上げると人影が炎の向こう、ぽっかりとあいた夜空から声が降っ
てきた。
鳶色の髪の毛の人影は光の翼を羽ばたかせて、アイナの傍に降りたった。
「光翼族……。キレイ……」
炎の中で七色に淡く輝く翼は美しかった。
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