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マンディザバル邸は大きなお屋敷だ。当然、窓の数も多い。
大きな窓にかかっているカーテンだから、大きくて重量もあるので開ける作業も一苦労だった。
それら全てのカーテンを開けて、整えなければならないので大変に時間のかかる作業だった。
アイナはカーテンを開けながら焦っていた。
カーテンを開けるという作業に慣れていないのはもちろん、もっと多くの仕事をしなければならないような気がしてしまうのだ。
とてもお世話になっているのに。
とても良い条件で働かせてもらっているのに。
この程度の仕事しかできないのでは見捨てられてしまうのではないか。
カーテンを開けているとそんな気分になってくるのだった。
早くカーテンを全て終わらせて、掃除の手伝いをしなくちゃ。
その次は、その次は何をしなくちゃいけないだろう。
早く、早く、早く……。
焦っていると、カーテンをうまく開けることができない。
チラリとイネスを見ればリズミカルにカーテンを開けて動かないように止めている。
アイナよりも開けているカーテンの数が多いのを見て、アイナの焦りはピークに達していた。
イネスよりも多くのカーテンを開けないと!
私が仕事のできない人になってしまう!
焦ってカーテンを思いっきり引っ張ってしまった。
嫌な音を立ててカーテンが破けてしまう。
「あぁ!」
小さくアイナは悲鳴をあげた。
「どうしたの?」
聞きつけたイネスが近寄ってきた。
「い、いえ。なんでも……」
そんな言葉で誤魔化せるものでもなかった。
イネスがアイナの背後からカーテンを見上げた。
どうしよう。怒られる。こんな簡単なこともできないのかって折檻されてしまう。
食事抜きで済むかしら……。
前にいた織物工場での罰を思い出してアイナは身を震わせていた。
「あら、破けちゃったのね。どうしようかしら」
イネスの言葉には怒気はなく、困惑の色が強かった。
アイナは取り繕うようにしゃべった。
「あの、私、カーテンを繕って直します。お裁縫、あんまり、得意じゃないけ
ど、きっと、うまく直せると、思いますし、えっと、その、だから」
「アイナ、ちょっと落ち着いて。誰も怒ったりしないわよ」
「……」
「私、執事のブラウリオさんに報告してくるわ。戻ってくるまで続きをお願いね」
イネスが部屋を出ていった。
アイナは顔を覆って疼くまる。
どうしよう。失敗しちゃった。怒られる。追い出されたらどうしよう。
ここはとてもいい場所なのに。私みたいななにもできない人間でも置いてくれるのに。
私、なんの役にも立ててない……。
しばらくして、イネスと執事のブラウリオが部屋に入ってきた。
「話は聞いたよ。アイナ、怪我はないかい?」
ブラウリオはまずはアイナを気遣った。
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