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「……。大丈夫、です」
「ならよかった」
ブラウリオは心からほっとした。というように顔を綻ばせた。
「カーテンはきっと古くなっていたんだろう。気にする必要はないよ」
「でも、お屋敷のものに傷をつけてしまって……」
「わざとじゃないんだろう? それなら気にする必要はない。旦那様も気にされないだろうしね」
「は、はい……。でも……」
「ここはお屋敷の中でも普段は使わない部屋だからね。そこまで重要ではないから」
「あの、お給金から引いてください。時間はかかりますけどきちんと弁償しますから……」
気にする必要はない。というブラウリオとあくまでも自分の所為だからと主張するアイナの間は平行線だった。
「自分が悪い」「弁償する」と繰り返していて、ブラウリオの話を聞かないアイナの頑なさにブラウリオは苦笑する。
「わかった。わかった。アイナ。少し話し合おう。こっちにおいで」
話し合いという単語にアイナは顔色を変えた。
きっと私は首になってしまうんだ。そうだわ、きっと。
悪い予感が頭の中をぐるぐると支配して、気持ち悪くなってきてしまった。
青白い顔色のアイナをブラウリオは屋敷の裏の方へと連れて行く。
途中、すれ違ったメイドに何かを言いつけていた。
アイナは判決を言い渡される罪人のような心もちでブラウリオの後ろをついて歩く。
到着したのは屋敷の裏庭に面したテラスだった。
普段はしようされていないのか、薄寒い印象を受ける。
庭も見るべき樹木はほとんどなくて、閑散といった風だった。
テラスにはテーブルと椅子が置かれていて、ティーセットが用意されている。
ブラウリオはアイナを座らせるとティーポットを手に取り、お茶の用意をし始めた。
「あ、私、やります」
アイナが手を伸ばせば、ブラウリオに「いいから座っていなさい。人の仕事をとってはいけないよ」と言われてしまった。
アイナは椅子に背筋を伸ばして座り直す。
ブラウリオの立派な所作に見入っていた。
いつか私もああいう風にできるようになりたい。でもここのお屋敷はきっと首だから覚えても仕方がないじゃない。あの所作は素敵だなぁ。
クビになりたくないな。ここで色々なことを覚えられたらいいのに。
でも、カーテンを破ってしまったし……。
「さあ、少し休憩しよう」
ブラウリオはお茶の入ったティーカップをアイナの前に置くと言った。
「休憩、ですか? あのお仕事が……」
「なに、私が休憩したくなったんだ。少しの間、付き合ってくれると嬉しい」
ブラウリオは座ってお茶の香りを楽しんでいるようだった。
「は、はい」
クビにする前の最後のひと時ということかしら……?
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