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無理のない仕事が与えられる。一人に押し付けられることもなく、複数人で分かち合う。
そういう職場だった。
そんな仕事のやり方に慣れていなかったアイナは、一人で勝手に仕事を抱え込もうとしていた。
それが、カーテンを破くという失態につながってしまったのだった。
「アイナ、焦る必要はないんだよ。誰もあなたが仕事をサボっているだとかそんなことは思っていないからね。みんなで仕事をして行くんだよ。そのことを忘れないでくれると嬉しい」
「……はい」
アイナは堪えきれなくなってポロポロと泣いてしまった。
ここは今までいたひどい職場ではないんだ。
みんな優しくて、楽しく働くことのできる場所なんだ。
ブラウリオはハンカチをそっと取り出してアイナの前に置く。
「気持ちが落ち着くまでここにいるといい。ゆっくりとお茶を飲んでからおいで」
「はい」
ブラウリオの心遣いが嬉しかった。
アイナはテーブルに置かれたお茶を見ながらぼーっとしていた。
ここは本当にいい職場だな。
「泣いているのか?」
「えっ?」
慌てて顔を上げれば屋敷の主人、クストディオが立っていた。
やばい、サボっていると思われちゃう。
「い、いえ、泣いてないです。すぐに仕事に戻りますので」
「行くな。なぜ泣いている。もしかして、いじめられているのか?」
クストディオは眉間に皺を寄せて聞いてきた。
「そ、そんなことないです。みんないい人たちばかりですから!」
アイナは慌てて否定した。クストディオの聞き方が恐ろしいもののように聞こえたのだ。
「ならば、何があった。泣くほどのことがあったのだろう?」
「えーっと、その」
クストディオの表情は真剣で、適当な言葉で誤魔化されてくれそうになかった。
それどころか、アイナの反対側の椅子に座る。答えるまで引かないぞという意思を感じた。
「あの、大変申し訳ありませんでした」
「何を謝る」
「カーテンを一枚、破いてしまいました」
「なんだ、そんなことか。怪我はないか?」
クストディオはホッとしたように肩の力を抜いた。
「大丈夫です」
「それでブラウリオあたりに説教をされていたということか」
「お説教という訳ではないのですが……。なんと言いますか、肩肘貼らなくてもいいんだよ。と言っていただいた感じです」
アイナは目の前に置かれたお茶をみた。使用人にもお茶を用意できるほど財力のあるマンディザバル家。その余裕が使用人の扱いにも表れているように感じる。
「あの、本当に感謝しています。ここで働くことができて私は本当に幸せだなと思っています」
「突然、何を言い出すのかと思えば」
アイナの唐突な言葉にクストディオは虚を突かれたようだった。
「いえ、お屋敷のものを壊しても怒られませんし。私の行動に問題があったのにこうしてお茶をいただいて、優しくしてくださいました。今までの職場では考えられないことですから」
「……。今までどんな場所にいたんだ?」
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