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アイナが光の翼に目を奪われていると鳶色の髪の毛の男性は一つため息をついた。
「この状況でそんな感想が言えるのなら平気そうだな」
「え? あ、いや、その」
「ここから脱出する。暴れるなよ」
男性はアイナの両膝の裏に腕を差し入れると抱き抱える。
いわゆるお姫様抱っこという態勢だ。
「え、えぇぇぇ。あの!」
「黙っていろ、舌を噛むぞ」
言って男性は翼をはためかせて夜空に向かって飛び上がった。
炎の壁をこえて、光の翼をはためかせて男性は夜空を飛ぶ。
アイナは、自分が火事に巻き込まれていたんだという事実を忘れてその光る翼に目を奪われていた。
黒煙の向こうにキレイな星空が見える。
星空を背景に飛ぶ光翼族の男性は美しかった。
ふいに足に地面の感覚が戻った。
地面に降りて、男性が抱きかかえていたアイナを下ろしてくれた。
それと同時に光の翼も仕舞われる。
芝生が足の裏にチクチクと刺さる。
アイナは靴を履いていないことに今更、気がついた。
「ここならもう安全だ」
「は、はい」
「火傷をしているな」
「えっ」
鳶色の髪の男性が顔を覗き込んできた。
男性の方も煤で真っ黒な顔をしている。それでも端正で整った顔だと言うこ
とはわかった。
「ここだ。頬のところが赤くなっている」
「あっ」
言われるとジンジンと顔が熱く痛みを覚え始めた。
「救護の天幕がある。そこまで案内しよう」
アイナは思わず男性の服の裾を掴んでいた。
男性は何も言わずに歩き出す。
アイナは捻挫した足を庇いながらその後ろについて行った。
救護の天幕の中では、兵士や騎士が忙しく働いていた。
鳶色の髪の家の男性は、アイナをその中に案内すると近くにいた若い兵士を呼ぶ。
水で濡らした布を持って来させてアイナの頬に当てがった。
「クストディオ様! どこに行ってらしたのですか!」
背後から声をかけてきたのは騎士団の制服をきた若者だった。
よく見れは、クストディオと呼ばれた男性も同じ制服を着ている。
煤で真っ黒だったが。
「……。彼女を助けていた」
「真っ黒じゃないですか。もしかして、火事の中に?!」
「大丈夫だ。心配はいらない」
「危ないことをなさらないでください」
「大丈夫だ」
アイナ越しに交わされる会話を聞いていると、急にアイナはほっとしたのだった。
あの火事の中を逃げまどったのが遠い過去のことのように思えてくる。
じわりと涙が溢れてくるのをアイナは止められなかった。
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