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クストディオの邸宅
「どうした。もう、安全だ」
男性がやさしく言い聞かせるように言った。
「あ、ありがとうございました」
礼を言って泣き出してしまったアイナにクストディオは困惑したようだった。
「泣くな。ここはもう安全だ」
安全だと繰り返す言葉に、アイナは一生懸命頷いた。
「おい、女。クストディオ様が困っているだろう。手を離せ」
「えっ」
「裾を掴んでいるだろうが」
若い騎士に言われて、初めてアイナは自分がクストディオの服の裾を掴んだままだったことに気がついた。
「え、あ、はい。ごめんなさい」
アイナは慌てて手を離す。
「その言葉遣いを改めろ、この方はな」
「やめろ」
アイナの態度が気に入らなかったらしい若い騎士をクストディオが制した。
「火事にあって動揺しているのだろう。そのままでいい」
「しかし……」
「すみません」
小さく震えながら謝るアイナをクストディオは見つめていた。
「ここでは休まらないだろう。彼女は一旦、私の屋敷で預かる」
「そんな、クストディオ様にお手をわずわらせるようなことでは……」
若い騎士の言葉を制して、クストディオはアイナを立ち上がらせると天幕の外へを連れ出した。
※ ※ ※
ぽちゃん。と水滴が落ちる音がした。
浴室は暖かい湯気に満ちていた。
「はぁ。あったかい……」
アイナは湯船に浸かっていた。
ここはクストディオの邸宅の浴室だった。
騎士団の馬車を乗り付けて降りたのは、王都の中心にほど近い屋敷へとやってきた。
その邸宅の馬寄せから降りた時、深夜だと言うのに屋敷は大騒ぎになった。
「あの旦那様が女性を連れて帰宅された!!」と。
クストディオは「彼女を頼む。治癒師を手配してくれ」と言いおくと火事の
現場に戻って行ってしまった。
ポツンと使用人たちの前に残されたアイナは心細かった。
クストディオがそばに居てくれないことが不安でたまらなかった。
そんなアイナの不安をよそに使用人たちはバタバタと仕事をする。
「治癒師を呼んで参ります」
と使用人の一人が走っていった。
「湯を沸かしますね」
「寝巻きを用意しますので」
「部屋の準備をしてまいります」
と言って何人かのメイドたちが走っていく。
そしてあれよあれよという間に、アイナは湯殿に押し込まれていた。
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