「RINEやってる?」職人と、メッセージアプリをやっていない女の子

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 俺の名は照屋雷夢(てるや らいむ)、何処にでもいる「RINEやってる?」職人さ。  道行く人々からメッセージアプリのアカウントを収集し、組織に売り払うのが俺の生業だ。  今日も獲物を求めて大都会東京を徘徊しているが……ムム、気弱そうな女子高生が単独行動を取っているぜ、これはチャンス。 「そこのお嬢さん、今忙しい? ちょっといいですか?」 「え……駄目ですけど……」  秒で断られたが問題ない。  反応した時点でこっちの勝ちさ。 「何処住み? てかRINEやってる?」  畳み掛けるように問う。  会話が成立した時点で、相手は俺を単なる背景ではなく、生きた人間として認識している。  同じ人間に問われたことに答えなければ、罪悪感が刺激されるって寸法さ。 「やってないですけど……」  やってないなら仕方ないぜ……。  目を見ればわかる、これはその場凌ぎの嘘じゃない。本当にRINEやってない人間の目だ。  だが、此処で諦める俺じゃあない。 「へぇ、それじゃLIMEはやってる?」  RINEをやってないならLIME。  これが職人芸ってやつさ。 「それもやってないです……」  なんと、LIMEもやってないとはな。  大抵の女子高生はRINEを、そうでなくともLIMEはやってるはずなんだが。  だがな、俺は職人。まだまだこんなもんじゃないぜ。 「そっかぁ、ならLIENはやってる?」 「それもやってないです……」 「んー、じゃLYNEは? やってる?」 「やってないですね……」  くっ、こいつは思わぬ強敵だぜ。  まさかLIENやLYNEすらやってない女子高生がいるとはな。  面白くなってきやがった……! 「LAINはやってる?」 「やってないです……」 「RAINは?」 「やってません……」 「LENEならやってない?」 「やってない……」 「LONE、LUNE、LONE辺りはどう?」 「聞いたこともないです……」 「LINFはしてるっしょ?」 「してないです……」 「LENIならやってたり?」 「しないです……」 「NILEは、やって?」 「ないです……」  なかなか手強いぜ。  これは俺も本気を出す必要がありそうだな! 「SENは?」 「やってません……」 「BOUは?」 「やってません……」 「HIMO!」 「やってません……」 「NAWA!」 「やってません……」 「TUNA!」 「やってません……」 「ROPE!」 「やってません……」  なんてこった……まさかこいつ、メッセージアプリをやっていないとでも言うのか!?  いや、それこそまさかだ。現代の女子高生がメッセージアプリをやってないなんて、そんなこと有り得ねえ!! 「あの……もういいですか……?」  女子高生は面倒臭そうに問い返してくる。  くっ、わざわざ確認を取るとは、何処までも律儀なやつだ……! 「……仕方ねえ……こうなったら最後の奥の手を使うしかない、か……」 「はい……?」  無意識に漏れていた言葉に、怪訝な声が返ってくる。  俺は覚悟を決めて……「RINEやってる?」職人としてのプライドを賭けて、尋ねた。 「てか……Sukaipeやってる?」 「あ、はい、やってます……」  そうして、俺は最後の賭けに勝ったのさ。  やはりSukaipe。Sukaipeは全てを解決する。  今は効かないが、いずれ癌にも効くようになる。 「おっ、じゃあID教えてよー」 「嫌です……」  IDは得られなかったが、最後に俺は確かな満足感を手に入れた。  これがあるから「RINEやってる?」職人はやめられない。  俺は十年後も二十年後も五十年後も……俺以外の誰一人として、RINEをやるやつがいなくなったって。  生涯「RINEやってる?」職人を続けるって心に決めたのさ。 <fine>
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