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 クラスの奴らとのカラオケは、早々に切り上げて俺は家に帰ってきた。  凪葵の部屋の電気がついていたから、あいつも帰ってきているのがわかった。  心身共に疲れた俺は、ベッドに寝転がり瞼を閉じる。  これから凪葵とどうやって付き合っていけばいいのか、わからなくなっていた。  さっきもみんながいるのに迫ってきて、自分だけ意識していることに怖くなり、つい怒鳴ってしまった。  思わせぶりな態度ってこんなにも迷惑なんだな。  これ以上、凪葵に振り回されたくない。 「奏和」  ふいに、凪葵の声が頭上から聞こえたような気がした。  幻聴まで聞こえるとか重症だ。  目を開ければ、俺の顔を覗き込む凪葵の姿があった。 「おまえ、勝手に」  起き上がれば、慣れた様子で凪葵は隣に腰掛ける。 「いつものことだろ。ねえ、さっきのどういう意味? 何に怒ってるの?」 「別に怒ってねーよ。俺の問題」 「もしかして他の子にキスしたこと? あれはたいしたことじゃない、だって――」 「おまえがそうでも、俺は嫌なんだよ!」  つい本音が漏れた。こいつの前ではもう自分をコントロールするのは無理だ。 「もういいから、ここには来るな」  凪葵から離れるため立ち上がろうとしたら、腕を引かれた。バランスを崩し、目の前に凪葵の顔が近づいて鼓動が早くなる。  とっさに離れようとしたが、こいつは掴んでいた手に力を込めて、さらに距離が縮まった。そして、優しく静かに言う。 「あれが、奏和との最後のキスなんて嫌なんだ」 「なに、言って……」 「一緒にいたい。俺から離れて行かないで」 「おまえ、そういうのホントやめろって。俺が勘違いしちまうんだよ!」 「勘違いじゃない。俺は奏和が好きだよ。もう一度付き合って」 「凪葵がやめようって言ったんだろ」 「今度は本気で付き合いたいんだ。キスだけじゃなく、それ以上のことをおまえとしたい。そういう意味の好きだよ」  真剣な表情でこちらを見据えてくる。  身体中が熱を持ったように熱くなっていた。 「俺と付き合うの、もう嫌だ?」  なんで、なんで急に。調子狂う。  いたたまれなくて俯けば、きっぱりと言う。 「奏和、俺を見て」  名前を呼ばれ、恐る恐る顔を上げた。じっとこちらを見つめる琥珀色の瞳。  俺の好きな凪葵がそこにいる。 「俺も……」  ――好き。  その言葉はひどく小さく、凪葵の耳には届かなかったようで。 「聞こえなかった。もう一回言って」  今度はぐっと両肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。  こいつに伝えたい。今の俺の気持ちを。 「凪葵が好きだ。もう一度付き合いたい」  そう言った途端、ぎゅっと強く抱きしめられた。  凪葵の匂いに安心する。トクトクと響く心臓の音は、やけに早くて。  そっと抱きしめ返せば、ため息をつかれた。   「なんだよ、それ」  少しむっとして凪葵の方を見上げれば、緊張した顔を見せた。 「怖かった」 「え?」 「奏和が俺から離れていったら自分の半分がなくなったみたいで。傍にいるのがあたりまえすぎて、自分の気持ちに気づけなかった」  凪葵が不安そうに目を伏せる。  安心させるように薄茶色の髪の毛をぐしゃぐしゃともみくちゃにするように撫でれば、まるで大型犬がくーんと鳴くような可愛い顔をさせた。  そして、次の瞬間、俺の唇にちゅっとリップ音をさせてキスをしてくる。 「親が家にいる時はやめろって」  照れを隠すようにそんなことを言えば、凪葵は優しい眼差しをこちらに向け、すりっと頬を撫でてきた。 「これからはいっぱいキスしよう。最後のキスは、俺と奏和がおじいちゃんになって――」 「おまえ、その頃まで一緒にいるつもりかよ」 「あたりまえだろ」  凪葵の台詞に恥ずかしくなるが、ここまで断言されると、やはりどこか嬉しい。  こいつは嘘をつかないから、本気なのがわかる。  最後のキスは、もっとずっと先。  これから何があるかわからないけど、凪葵と未来を歩いていきたい。  今はそう強く思えるんだ。
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