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「もう、やめようか」
いつもの奏和に戻って欲しかったから、あやふやなこの関係を解消しようと思った。
それなのに、あいつは顔をくしゃりと歪めて俺のことを見た。
そんな悲しい顔をさせるつもりはなかった。
胸が締め付けられるように苦しくて、どうすればいいのかわからなくて。
「最後に――キス、しようか?」
そんなことしか思いつかなかった。
いつも俺が口づけをしたら、少し嬉しそうな顔をしてくれるから。
また前みたいに笑ってほしい。
それだけなんだよ。
奏和は俺の方を見てはくれなかった。
優しく頭を撫でてみる。いつもきっちり手入れしているのがわかる艶のある黒髪。愛しむようにその髪に指を入れて触れた。
それでもこちらを向いてくれないから、無理矢理に近い形であいつの顔を俺の方に向かせる。
この整った顔も、多くの人から注目を集めるほど魅力的で、いつまでも見ていたかった。
真っ黒な瞳は潤んでいて、今にも泣いてしまいそうだと感じる。
奏和が瞼を閉じた瞬間、唇に触れたら、心がじんわり温かくなった。女子としたのとはまるで違う。
だけど、奏和は眉間に皺を寄せ、苦しそうにしていた。
付き合ってキスしたら気持ちよくなるんじゃなかったの?
何度も奏和の唇に触れたが、その表情はずっと変わらなかった。
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