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凪葵とは、幼馴染であり親友でもあった。
家は隣同士で親が共働きだった凪葵は、ほとんどの時間を俺の家で過ごした。
いつも黙って俺のあとをついてきて、かわいい子犬のようだった。
高校も一緒がいいと凪葵は言い、お互い猛勉強をして同じ高校に入学した。
その頃には俺よりも背が高くなり、子犬というよりは大型犬みたいになっていた。
付き合ったきっかけは、ひょんなことからだった。
クラスの女子に、面白いから読んでみてと押し付けられた少女漫画を部屋で読んでいた時だ。
けっこう濃厚なキスシーンが出てきて、その話で盛り上がった。
「キスってどんな感じなんだろう」
俺が何気なしに言うと、凪葵はきょとんとした顔で言う。
「したことないの?」
その言葉にギョッとした。
俺が知る限りでは、今まで凪葵に彼女がいたことはないはず。
だから、俺と同じで未経験なのかと思っていたのに、いつの間にかファーストキスを済ませていたのか。
「おまえ、誰としたんだよ」
つい、ふてくされたような声を出してしまった。
凪葵は頭を掻いて困った顔をする。
「したことないって」
「なんだ、驚かすなよ」
「俺の方がびっくり。奏和はモテるのに」
モテるかどうかはよくわからないが、誰とでもすぐに仲良くなれる自信はあった。
周りが言うには、俺の思わせぶりな態度が人を勘違いさせてるとのことだ。
そんなつもりはないけど、女子からよく告白されるのはそのせいなのだろう。
『一人にこだわらず、色々な人と出会い、付き合いを広げて自身を成長させなさい』
父の教えだった。その影響のせいか、人との付き合い方は自然と身に付いた。
だけど逆に、相手にどう思われているかは人一倍気になった。
決して表には出さないが、気を病んだり疲れることも多い。
一人の誰かと付き合うことにメリットを感じなかった。
凪葵はというと、はっきりとした性格だから裏表がなく、逆にわかりやすくて一緒にいても楽だった。
「ねえ、試しにしてみる?」
なにを? と尋ねる前に凪葵は、俺の目の前に顔を寄せてきた。
透き通った薄茶色の柔らかそうな髪がふわりと揺れ、長い前髪の隙間から琥珀色の瞳がじっと俺を捉えて離さない。
こいつの肌は近くで見ると白いのがよくわかる。生まれつき目や肌、髪の色素が薄いことを凪葵は気にしていた。
俺的にはきれいで気に入っている。それは口にしたことはなかったけど。
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