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「目を閉じてよ、奏和(かなと)」  しびれを切らしたのか、さらに距離を縮めてきた。    こいつキスするつもりか?  凪葵の態度は冗談ではなさそうだ。  ここまできたら後には引けない。動揺した方が負けのような気がした。  覚悟を決めて目をぎゅっと瞑れば、少しして唇にふにっとしたやわらかな感触を感じた。  だけど、それはすぐに離れる。  目を開ければ、凪葵は無表情のまま首を傾げていた。 「こんなもんか」  あいつはそう言ったが、俺は内心、心臓がバクバクしていた。  相手はただの親友。しかも男だ。  だけど、はじめてだったせいか、唇と唇が触れただけで胸が破裂しそうだった。 「付き合ってると違うんじゃねーの」  平静を装って適当なことを言えば、凪葵はそっかーと納得している。そして、言葉を続けた。 「じゃあ、付き合ってみよう」 「はぁ!?」  驚きのあまり上擦った声を出してしまった。 「だって、付き合ってキスしたら気持ちよくなるんでしょ?」 「知らねーけど」 「試してみたい」  ただ貪欲に好奇心というだけで言っているのだろう。  だけど、誰かと付き合うという経験はしたことがなかったから、それをよく知っている凪葵とできるのはラッキーかもしれない。 「よし、試そうぜ」  それから俺は、凪葵と付き合うことになった。
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