7人が本棚に入れています
本棚に追加
平凡な日常
僕の名前は、林川 渚。
双子の姉である、林川 葵と高校に通いながら、2人で暮らしている。
生まれたときから、お風呂は同じ、部屋も同じ、好きな食べ物も同じと、似たり寄ったりの双子なのである。
将来は、それぞれ離れることなく暮らそうかとも考えているくらい、お互いの事を思っている。
そんな良いことだらけな僕らには、唯一の欠点がある。
それは、姉さんも僕も極度のコミュ障という事だ。
その欠点は、高校に入ってから出来た訳ではない、つまり、保育園…いや、生まれたときからそうなのである。
その為、人見知りが激しく、話すときは、目を合わせることが出来ずに、周りからは嫌なやつと思われてきたのだ。
しかし、姉さんだけは、違った。
姉さんは、僕より人見知りは激しくない為、コミュ障でも多少の会話が出来るというメリットがある。
このままじゃ、僕だけ1人になってしまうのでは無いかと毎日怯えて暮らしている。
そんなことを考えながら、今保体の授業を受けている。
肝心な授業内容は、『バスケ』らしく、チーム分けを行った結果。
僕と姉さんは、別チームに入ることになった。
なぜそうなったのか、それは、遡ること数分前。
「チーム分けどうする?」
「とりあえず、2列に並んで半分にすれば?」
「いいね、それ」
「あおもそれでいいよね?」
「えっ、あ、うん……」
と、姉さんは、断ることが出来ずに(いや僕も出来なかったけど)チームが別になってしまった。
ちなみに、補足だが、姉さんは、あお と呼ばれている。
(葵だから、あお)
正直言うと僕は運動だけが得意なのだ。
勉強も全くついていけないし、ほとんど寝てるだけ。
運動するときだけ大体、起きてるし真面目に授業を受けている。
開始の笛が鳴って、一斉に各自のポジションへと向かう生徒。
僕は勢いよく走り出して、なるべくボールが届く所へ向かった。
よくあることだが、相手チームのゴールに大体向かうことが多いので、あえて、ここを取ることでボールがこっちに来たときに、シュートを決めることが出来るのだ。
と、そんなことを考えているとボールがこっちへ飛んできた。
僕はボールを手に取りドリブルを軽くしてゴールへと向かった。
後ろから沢山相手チームの人が来ているため、どこに投げればシュート出来るのか考える余裕は無いようだ。
僕は、ゴールへとボールを投げてシュートを決めることが出来た。
ーこの調子で試合は、自チームによる勝利で授業が終わった。
「やっぱり、渚は強いなぁ…」
更衣室で制服に着替えている僕の横で感心しながら、言う姉さん
「そんなこと無いよ…、姉さんだって強かった」
「この調子じゃ、将来バスケの選手でも良さそう…」
「い、いやいや…僕は…」
「あおー?更衣室の鍵閉めお願いしてもいい?」
「あ、うん…いいよ」
更衣室の鍵を渡されて、軽く溜め息をつく姉さんを見て僕は、何だか心配になってしまった。
「僕が行ってこようか?」
とっさに口に出た言葉に自分でも驚いた。
今まで、全部姉さんに任せっきりだったのに、何でか今日は、言えたのだ。
「え、いいの?…でも、渚、職員室に入れる…?」
「…だ、大丈夫…いつも、任せっきりは流石に悪いよ…」
僕は姉さんから更衣室の鍵を渡されて、荷物をまとめて2人で更衣室を出た。
「じゃあ…お願いね」
「うん…」
僕は、昇降口で待ってるからと、姉さんに言われて職員室へと向かった。
よく言った僕、これは賞を取れるくらいにすごいことだ。
お母さんに伝えたら誉めてくれるだろうか。
ー数分後
考え事をしているとあっという間に、職員室に着いてしまった。
大丈夫、鍵を返すだけだ。
そんなこと僕にだって出来るはず…だ。
職員室の入り口に立って、大きく息を吸う。
まだ、中に入ってないのに、こんなにも緊張してしまうとは。
ドアを手に取ろうと奮闘する僕。
あぁ!ダメだ、早くしないと、姉さんが待ってるんだから!
「…渚さん、職員室の前で何やってるの?」
「あっ!?はっ、はいっ!?」
後ろから突然先生の声がして、緊張と驚きが混じって変な声が出てしまった。
「あ、あ、あ…」
口をパクパクさせながら、次の言葉を考える。
そうだ、更衣室の鍵を返そうとしてたんだった。
「せ、先生っ、あのっ、…えっと…更衣室の鍵を…返しに……来ました」
「更衣室の鍵?あぁ、そういえば、1組は6時間目、保体だったね」
「ありがとう、返しておくね」
先生は、僕から更衣室の鍵を受け取った。
「じゃあ、また明日」
「は、はいっ、また、明日……」
それだけ言って先生は、職員室へ入ってしまった。
「……危なかった……」
何とか危険を免れたようだ。
ネトゲだけでイキれる僕は、現実世界じゃただの、空気そのもの。
話しかけられたことに対する恐怖がヤバいのだ。
ー数分後
早歩きで、昇降口へ向かい、下駄箱で靴を履き替えた。
そして、すぐに外へ出て姉さんの元へ向かった。
「あ、どうだった…?」
「何とか……返せた」
僕の言葉を聞いてホッとする姉さん。
心なしか僕より安心してないか?
「じゃあ、帰ろっか」
「うん…」
僕は、2人で帰れることに喜びを感じて、少し遅く歩いた。
姉さんは、それに気づいて遅く歩き始めた。
「また、考え事?」
「ううん、久しぶりに2人で帰れるなって思って…」
少し照れながら笑うと、姉さんは少し照れていた。
「入学式…以来だよね」
「そうだね…、それまで委員会とかで一緒に帰れなかったもんね」
夕日が2人を照らして何だか神秘的だった。
ー数分後
日が暮れて辺りは、真っ暗になっていた。
今夜は、夜空がとても綺麗でそんな日に2人で帰れることが、とても幸せだった。
「今日の晩御飯、何がいい?」
「う~ん、オムライスが食べたいな…」
「オムライス?」
「うん、今日の朝テレビで、特集してたんだ」
今朝、オムライスの特集番組が、放送されていた。
そのため、今の僕はオムライスが食べたくて仕方がない。
「じゃあ、オムライスにしよっか」
「やったぁ!」
僕は素直に喜んでしまった。
「あはは、オムライス食べるの何年ぶりだっけ?」
「え、えっと……2年くらい前だった…気が…」
「あれ、もうそんなに、経ってたんだ…」
姉さんは、少し悲しそうな顔をした。
「………お母さんとお父さんが交通事故に遭って、丁度2年…だね」
僕は気まずくなって下を向いた。
「……お母さんの作る料理は全部美味しかったなぁ…」
姉さんは、夜空を眺めながら歩いた。
僕は、鞄からスマホを取り出して、カメラを起動させた。
そしてこっそり、姉さんを撮影した。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
僕は、バレないようにスマホをポケットに閉まって、目を反らした。
こんな日々が毎日続けばいいのに…。
と、僕は隣で笑っている姉さんを横目に思った。
ふと、足音がだんだん近づいてくるのを後ろから感じて、後ろを振り返った。
知らない男が、左手に光る物を持って走ってきた。
僕は、怖くて逃げようと、前を見ようとした瞬間。
背中に激痛が走って、地面にゆっくりと倒れていく自分の体を見て、あぁ、死ぬんだと悟った。
「渚!?」
姉さんは、倒れた僕を見て目を見開いた。
男は、無我夢中で僕の元へ駆け寄った姉さんの腹を狙った。
姉さんは、かわすことが出来ずに、腹を刺され僕の隣に倒れた。
「………姉……さん………」
「………渚……お願…い………渚だけ……は…」
傷が深かったのか、姉さんは僕より先に目を閉じた。
姉さんは、死んでしまった
「う、嘘だ…………死んじゃ……やだよ……」
嫌だ嫌だ嫌だ、死にたくない、姉さんお願い、死なないで!!
一人ぼっちは、嫌だよ!お願いします神様、姉さんを…姉さんを!!
『姉さんを助けてください』
最初のコメントを投稿しよう!