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「はい」
「連絡先もわからない」
「はい……あ。でも、ナミさんが高校のころに住んでいた家ならだいたいの場所はわかります」
「ほう。それはありがたい」
刑事は「おい」と背後に控えていた部下に合図を送った。若い刑事はすぐにメモ帳とペンを僕の前に置いた。
「そこに書いてもらえますか。あと、この画像をコピーさせてもらってもいいですか?」
「どうぞ」と答えつつ記憶をたどり、紙に地名を書き込んでいく。
その間に若い刑事がスマホを手に部屋を出て行き、数分後に戻ってきた。
「こちら、お返しします」
書き終えたメモ帳と交換するようにスマホを受け取った。
「では、今日はこのあたりで。ご協力感謝します。」
頭を下げる刑事に恐縮しつつ、僕は会議室を後にした。
歩道を歩きながら、警察署の建物を振り返った。
「あの刑事、すっかり信用しちゃって。騙されたと知ったら激怒するだろうな」
つぶやきながら、僕は笑いをこらえるのに必死だ。
「それに、あいつらもいきなり警察が乗り込んできたら、さぞ驚くだろう」
高校時代、確かに僕は先輩たちと行動をともにしていた。でもそれは友達としてではなく、下僕扱いされていただけだのことだ。ことあるごとに呼び出され、パシらされ、根拠のない暴行を加えられた。
ある日、ナミという女から連絡が入った。それが先輩の彼女であることは知っていた。それまで直接連絡を寄越すことなどなかったことなので緊張していると、ナミはとんでもないことを言い出した。
「ね、内緒でHさせてあげよっか?」
当然からかわれているのだろうと思った。ただ、ナミは先輩の彼女にしておくのはもったいないほどの美人だった。顔をあわせるたび密かに劣情を抱きもした。だから頭の片隅にはもしかしたらという浅はかな考えも浮かんだ。
とはいえ、さすがに「はい、したいです」とは即答できるはずもなかった。たとえ本当にやれたとしてもそれが先輩にばれた時のことを考えれば危険すぎた。
でも、童貞の性に対する探究心は理性を簡単に破壊してしまうものだ。
あれやこれやと理由をつけてナミさんは僕を誘った。疑念を持ちつつももしかして本気なのではという期待も多分にあった。
だから、本心はやりたくないけれどナミさんの誘いを断るのも失礼かと思って仕方なくやらせていただきます、という体裁にして話に乗ることにした。
内心わくわくしながら彼女の家に向かうと、先輩とその仲間たちが待っていた。その瞬間騙されたことを悟った。どうやらHをエサに誘えば僕がのこのこやってくるのか、みんなで賭けをしていたらしい。
ナミさんはもちろん僕が来るほうに賭けていた。だからあんなに必死になって誘ったのだ。
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