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いくら言い訳しても無駄だった。先輩は「なに俺の女とやろうとしてんだ」と言って僕をぼこぼこにした。それを見てナミさんは手を叩いて大笑いしていた。
復讐という文字がそのとき脳裏に浮かんだ。僕を騙したこいつらに仕返しをしてやろうと誓った。しかし非力な僕があいつらになにをできるとも思えなかった。
でもあきらめず、あれこれ考えあぐねた挙句に思いついたのが今回の計画だ。ナミさんとのやりとりをうまく切り抜き、闇バイトの勧誘にみせかけたのだ。全てを見れば嘘だと簡単にわかるだろうが、一部だけなら立派な証拠となり得る。捏造だけど。
先日の強盗の犯人はいまだ捕まっていないと聞く。少なくとも警察はナミさんから先輩の元へとたどり着くだろう。叩けばほこりの出る奴らだけど、きちんと調べれば事件と無関係なことはすぐにわかるはずだ。でもそれでいい。ちょっとビビらせてやるだけでいいのだ。やつらに小さな復讐をできるだけで僕は満足なのだから。
いずれ僕も罰を受けることになるかもしれないが、それとてたいしたものではないはずだ。
会議室の窓からは大通りが見渡せた。その歩道を男が歩いている。先ほどまで刑事の目の前に座っていた青年だ。一瞬こちらを振り返ったが、この距離なら窓の人影などには気づかないだろう。
「どう思う?」
刑事は背後の部下に問いかけた。
「どうもこうも、ガセでしょう、こんなもの」
「だよな」
「わかっていて、どうしておとなしく話を聞いてやったんですか?」
呆れ顔の部下に刑事は苦笑を見せると、
「あんな気の弱そうなガキが刑事相手に嘘をつくんだから、よっぽどの理由と覚悟があってのことだろうと思ってな。それに、案外うまくできた話だったから面白くなってさ」
「物好きですね」
「ま、その度胸に免じて騙されたふりをしてやった、ってことだよ」
刑事は青年が書き残したメモを手に取ると、
「騙したつもりが騙されたとは、あいつも気づいてないだろうがな」
それをくしゃくしゃに丸めゴミ箱に放り込んだ。
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