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第四章 晴れゆく空
ガラステーブルの上で、井野尾のスマホが震えた。
井野尾はすぐ前に置かれたソファに身を沈め、両手で頭を抱えていたところだった。
ここ一年、焦燥感とイライラが収まる日はない。
マトリや警察の包囲網は狭まりつつあるはずなのに、大きな動きを見せてこないのが不気味だった。
おそらくDDの幹部やそのバックにいる組織をあぶり出すために、自分は泳がされているのだろう。
真綿で首を絞められるような圧迫感に、精神がどうにかなってしまいそうだ。
加えて自分と六人の部下たちは、DDから厄介者として扱われ、関係をきられかけている。
頼る者のいない八方塞がりの状態で、溜まりに溜まった抑鬱と緊張は、もう限界にきていた。
そこで閃いたのが海外脱出で、その手配を水篠伊織にさせようと井野尾は考えた。
それが約二週間前のことだ。
理由は不明だが、伊織は一年ほど前からDDを嗅ぎ回り、情報をほしがっているようだった。
だからそれと引き換えに海外逃亡の手引きをさせようと思いつき、あの貸倉庫に呼び出したのだ。
伊織への連絡手段は、千遥だった。
彼女が伊織の妻になっていたことは衝撃だったが、このパイプラインを使わない手はないと考えた。
だから井野尾は、千遥に連絡をとったのだ。
一年ぶりに彼女にメッセージを送るとき、気分が浮き立った。
本来であれば伊織を呼び出してほしいと、千遥に伝えるべきだっただろう。
けれど井野尾はそうしなかった。
千遥本人に、ひとりで貸倉庫に来てほしいという内容にした。
おそらく千遥はこのことを、伊織に相談するだろうと踏んだからだ。
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