序章

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序章

 唐突に目が覚めた。  視界に入ったのは白い天井だ。  千遥(ちはる)は一度まばたきをした。  この天井に、見覚えがない。 「あ、れ……?」  つぶやく声が驚くほどかすれていた。  頭痛があって熱っぽく、体もひどく重たい。  なぜなのか、心当たりはまるでなかった。  戸惑いながら、千遥はシーツに手をついた。  力を込めてなんとか上体を起こす。  それだけの動作すら大変で、信じられないことに息が上がった。  家と会社を往復する生活なので、日頃から運動不足だ。  けれどまだ二十五歳、衰えるには早い年齢である。  小柄で細身だとはいえ、体力には昔から自信があった。  肩のあたりまで伸びたまっすぐの髪を、耳にかける。  室内を見回して、千遥は不審に思った。 (ここは……病室?)  六畳ほどの室内には、千遥以外誰もいない。  白い布団のシングルベッドには柵が取りつけられている。  そこに、ベッドの高さを調整できるリモコンが引っかけられていた。  すぐ左手には、縦長の棚と一緒になったテレビ台。  うしろの壁を見ると、医療用と(おぼ)しき横長のコンソールがそなえつけてある。  自分は入院しているのだろうか。  声がかすれているのも、体がこれほど重いのも、病気に(かか)ってしまったから?  でも覚えがまったくないのはなぜだろう。
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