やっちん先生

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「何これ?」 徹平がゴミ箱の蓋を持ち上げ言った。 「んっ臭せい、何だよやっちんこの新聞紙はよ?まさか」  徹平は俺の股間に神経を集中させ透視を始めた。 「パンツかこれ?ええっフルチンかよやっちん」 「見えるのか徹平?透けてるか?」 「バーカひっかかりやがんの」 「徹平、てめえ汚ねえぞ、騙しやがって」 「勘違いするなよ、汚いのは俺じゃなくておまえ。クソ漏らして、汚れたツンパ丸めてポイかよ。こりゃあ受けるぞ」 「受けるって誰に、おまえまさかチクルんじゃねえだろうな。親友じゃねえか」 「ああそうだ親友だ。この事は誰にも話さない。俺んちは嘘つくとおじいさんに拳骨喰らうから約束は守る。でも話したくて話したくてしょうがないおいしい話を生涯我慢するんだからそこんとこヨロシク」 「なんだよヨロシクって。わかった、カツ丼奢るよ」 「まあ今日はそれでいいや。でもこれはカード代わりに使わせてもらうよ。初めてのアコム♪」  それから現在に至るまで、自分に都合の悪い時、俺に協力を求める時にちらつかせる。俺がとぼけていると丸めてポイとか、クソ塗れとか、妙な節をつけて唸りだす。今更誰に知れようと気にしているわけではないが、徹平のその仕草が可笑しくて従っている。 「ばあちゃん、悪いけど便所貸してくれ。雄二はもう行ったのか?」 「ああ、たんと垂れてけ。あの子は朝連で早く出かけた。ところでやっちん、うちの子に彼女おるんか?」 「いいや、聞いてない。ばあちゃんもうちょっと辛抱しとけよ、秋には水洗にするっておやじ言ってたから」 「なーに気にしちゃいねえ、近所に畑でもあればぶんまいてやるんだが、そうだおめえんとこの畑に撒いてやるか、これから茄子や胡瓜の苗植えるんでねえか?」 「いやあまずいよばあちゃん。周りは住宅出来ちゃったし、それに腰に良くないぞ重いもん持ったら」 「なーに少しずつタッパに入れて何回も運べば同じだ、それにおらの腰は寝ていても治るもんでもねえし、お父さんに伝えておいてくれ。次の日曜日にばばあが肥し撒きに行くからって、いい野菜ができるぞ」 「ばあちゃんほんとにいいって。俺時間ないから学校行くからな、ほんとにいいからな畑に肥やし」  頑固で律儀なばあさんだから油断ならない。うちのおやじに恩を感じていて、どっから手に入れたのか、おやじの消防服姿の写真をちっちゃな観音様の横に並べて立てかけ、毎朝拝んでいると雄二が言ってた。それを聞いたおやじは暫く肩を落としていた。
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