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「おっはようございます美智子先生。また今日は一段と美しいじゃありませんか」
「あらやっちん先生今朝は快調のようですね」
「ええ、一番に美智子先生と挨拶交わせるとその日一日調子がいいんですよ、これが教頭や吉川さんだと厳しいんですよ。それじゃ先に行きます、ほいほいほいと」
こんなひとが嫁に来てくれたら最高だ、おやじもジャンプして喜んでくれるだろう。清潔で疚しいところがないから誰でも気軽に打ち解けられる。会話が途切れても気まずい北風は寄せ付けず、水分をたっぷり含んだやさしい南風で包んでくれる。これはいくら学習しても習得は困難で、彼女の天性である。
俺は校舎に入ると、念の為にまたトイレに行った。ここで駄目押ししておけば苦しむことはなく、何を喰おうと何を飲もうと今日一日内臓は完璧な機能を果たしてくれる。
「やっちん先生、おはようございます。さっき三年生の野球部の子がやっちん先生を訪ねてきましたよ。伝言はって聞いたら、いいですって教室に戻って行きました」
「そうですか、雄二かな。どうせ飯でも食わせろってそんなもんですよあいつらの用事なんて、わざわざすいません」
吉川先生はニカっと笑い、その場ターンを決めて職員室に向って行った。俺が彼女の後姿に釘付けになっていると何か言い忘れたのか、Uターンをして転がって来た。転がって来たと表現したのは大袈裟ではなく曲芸の玉乗りがこういう進み方をするからである。
「教頭先生がお呼びでしたよ、急用らしいので、仕事にかかる前に職員室に寄って下さいって」
「教頭が?、急用?、偉そうに。吉川先生、職員室に行くんでしょ。教頭にこう伝えて下さい。頼み事があるならグランドにいるから来るようにって、毛虫を籠いっぱいに捕まえて待ってるからって」
「いいんですか、そんなこと伝えて」
「ええ構いませんよ。我々は部下じゃないんだから。子供達を教育するのが先生方、子供達が過ごし良い環境作りをするのが俺や吉川さんの仕事じゃないですか。完全に役割分担が決まっているんだから、小間使いにされては困りますよ、貴重な市民の税金で生活させていただいてるんだから俺達は」
「へーっ、やっちん先生にそんなご立派な職業意識があったなんて見直しましたわ。でも何か、特定の生徒の事で、それならやっちん先生が適任ですと美智子先生の推薦があったようですよ」
「やだなあ吉川先生、それを早く言ってよ。急用ですね、わっかりました」
俺が喜び勇んで職員室に飛び込むと、ほとんどの教員は授業に出ていて、教頭と数学の中川先生が扇風機の前で立ち話をしていた。美智子先生も見当たらず、俺は二人に気付かぬ振りをして職員室を出た。
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