やっちん先生

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「なんだよ、恥ずかしいなあ、両手で手を振る奴があるかよ」 「あら、ご挨拶ねえ、ポケットつきで襟のしっかりしたTシャツを入荷したから知らせようと一生懸命合図したのに知らん顔して、ひどい」 「わかったよ、ありがとうよ、大きな声出すなってみんな見てんじゃねえか、今度よるからとっといて五枚ばかし、じゃあね」 「わかったわー、バイビー」  怖いもの見たさに振り返るとかま店はまだ手を振っている。両手を胸の前でバイバイしている。知り合いに見られていなきゃいいが。徹平を見舞いに行こうかと一瞬迷ったがその気になれないし、徹平に黙ってエバのことをサラマリアさんと会って相談したと言いづらい。  俺は雄二が帰ってくるのを玄関で張っていた。外だと裏山に潜んでいる薮蚊が汗の臭いを嗅ぎ付けて襲い掛かってくるから、玄関で詰め将棋をしながら待った。おやじが不思議そうな顔して俺の横を通ったが何も言わずに食堂へ入っていった。生姜焼きのいい臭いが俺を誘惑するが今日のことを雄二に報告しなければいけない。胸がはちきれるのを我慢して学校に行き、くだらない授業を受け、放課後には練習で汗を流している。一度帰宅してからすぐにエバのとこに出かけるかもしれない、だからここで張っていて帰り際を捕まえようと考えたのだ。彼女に会いに行くのは構わないが、少しでも話が進展したのを一刻も早く伝えて気持ちを楽にさせてやりたかった。それにばあちゃんも心配している、年齢を重ねてもやはり女で、雄二に纏わる女の影をしっかりと感ずいているようだった。白い長身が横切った。 「雄二」  俺は突っ掛けで飛び出し腕を掴んだ。 「ちょっと話ししよう、ばあちゃん心配するといけないから十分ぐらい、今日話し合ったことをおまえに教える」 「バッグだけ置いてきます」 「いやいいよ、俺んちの玄関にぶん投げとけ。直ぐ出かけるとばあちゃん心配するから、それにすぐ終わる」  俺達は裏の大興寺の駐車場の車止めに腰をおろした。
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