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「雄二、帰ろう、ばあちゃん心配して学校に電話するといけないし、俺も腹が減ってきたから。行くのか?」
雄二は大きく頷いた。安堵した自分が情けない。
食堂に行くと俺のしょうが焼きに蝿避けの網が被せてあった。台所にはクーラーが設備されていないので窓はすべて開け放たれていて、近所の畑かドブで湧いた蝿が単独で飛び込んでくる。身体に不釣合いなでっかい目で俺のしょうが焼きを網のてっぺんから狙っている。
「ほれ、出てけっ」
おふくろが新聞紙を丸めて侵入者を追い払った。
「どっから入ってくるのかしら、網戸に隙間でもあるのかもね、休みの日に見てくれない安男?温めようか?」
「いいよいいよそのままで」
電子レンジにかけられると付け合せのキャベツの千切りまで熱くなってしまって気持ちが悪い。
「それお父さんのよ」
「いいじゃねえか一杯だけだよ、おふくろが言わなければ気がつかねえよおやじ」
何本か並んでいるスコッチウイスキーの一番高そうなやつをグラスになみなみと注いだ。
「一番いいやつ、それが一杯?まったく、お母さんにも少し注いで、黙っててあげるから」
「飲むのかよ?味わかんのかよ?」
おふくろのグラスに三分の一ほど注ぎ、テーブルに置いた。
「なあおふくろ、俺を身篭ったときどうだった?」
「なに言い出すかと思ったら、どうだったってどういう意味?」
「例えば嬉しくて涙がこぼれたとか、その逆でこんな子は要らないのにとか、あるだろう色々」
「こんな子は要らないと考えるようになったのはおまえが大きくなってからよ」
「ふざけやがって」
「お母さんにもう少し注いでちょうだい」
「バレるぞおやじに、俺のせいにすんなよな」
おふくろのグラスと自分のグラスにさっきと同量を注いだ。
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