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田中先生が夏休み中も連絡を取り続け、納得のいく応答がなければ担任の責任として、家庭訪問せざるを得ないだろうと言っていた。エバがさらし者になる前に終わらせなければならない。歪んでいるかもしれないが俺が判断した正義だ。グラウンドでは野球部とサッカー部がうまく使い分けして練習している。どちらも秋の大会に向けて炎天下に頑張っている。雄二と孝は三塁側で投球練習をしている。バッテリーを組むのもこの夏で最後となる。孝は練習にほとんど出なくなり、進学に向けて学校でも家庭でも机と対面しているらしい。この教室は中川先生が担任の三年二組で、放課後は野球部の更衣室に使用されている。中川先生が手を振った、時計を指してもうすぐ終わるからとジェスチャーで俺に知らせた。彼が愉しみにしている斧投げをこれからやるので俺は待っているのだ。しかし五時には終了しなければならない。
ジョセフ神父と大船で六時に待ち合わせしている。サラマリアさんとエバに会う前にもう一度二人の意見に変わりはないか確認しておくためだ。もし少しでも考えにぶれが出たなら、事前に調整して、二人の考えを一致させて、迷いが無いと示す必要があるからだとジョセフ神父の配慮だ。さすが神の使いだ、俺とは気配りが違う。
野球部員が全員バックネット前に集合した。中川監督の訓示に部員達が神妙な顔して耳を傾けている。監督の一語一句にはっきりと「はい」とか「おい」とか返事をしている。家庭でもあれくらいの返事をして、言うことを聞いてくれたら親達はさぞ育て易いのに、うまくいかないもんだ。監督が輪から抜けて、キャプテンの孝を中心に円陣を組み、気合を入れて解散となった。一年生だけが残りグラウンドの整備を始めた。
「やっちん先生、お待たせ、食事しましたか?」
「いや、終わってからにしますよ、俺先に行ってますから、生徒に見つからないように来てくださいよ、そうですね、裏門から出て、テニスコートの上を通り過ぎると大きな桜の木があります、フェンスと桜の木に隙間がありますからそっから山に入って下さい。俺が下草を刈って歩き易くしてありますから」
「毛虫いませんかね?」
「いますよ、それより靴で来て下さいよ、蝮がいますから」
俺は階段下の道具置き場件仮眠所の鍵を開け、斧と鎌を担いで校庭を横切った。
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