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次の日のお昼休み。
移動教室から帰ってくると、私の机の右端に小さな付箋が貼ってあった。
「旧館屋上」
旧校舎の屋上…。旧校舎自体が教室のある新校舎から遠く、梅雨が開けたばかりの今は屋上で食事を取る人も少ないだろう。
他の人に見られないよう、こっそりと付箋を剥がすと「ちょっと先生に呼ばれてるから」と噓を付く。
「入試前に男女2人きりはちょっとまずいから、手短にお願いできる?」
屋上で待っていたのは予想通り、きちんとマスクを付けた昨夜の彼だった。
「大丈夫。絶対人には見られないから、ここ。
学校の人に見られない場所情報だけには自信あるからさ。」
彼は空になったパンの袋と、ペットボトルを片手に目を細める。
「昨日はありがとう。ハンカチ洗ったから返したくてさ。
あ、俺が使ったの嫌だったら弁償するから言ってね。」
「別に大丈夫。ハンカチだけ貰っとくね。
あと、話にくい内容だったと思うのに昨日はズケズケ聞いてごめん。」
皺1つない、綺麗に折りたたまれたハンカチを受け取る間、私は彼と目を合わせられなかった。
「それこそ大丈夫大丈夫。
むしろ久しぶりに言いたいこと言えてスッキリしたから。
あ、でも良かったら次、副委員長の話聞きたいかも。」
「多少ならいいけどどうして?」
「前に大学進学組は大変だって聞いたからさ、良かったら副委員長も愚直聞かせてほしいなって。俺まだ進路決まってないから色々情報も欲しいし。」
3年生の夏に…進路が決まっていない!
驚きのあまり、視線が彼へと吸い込まれる。
「そんな、悪いよ。」
「大丈夫、俺こう見えても聞き上手ってよく言われるから。
ネット上での話だけど!」
「…。」
「あ、普段教室で孤立してるボッチのくせにって思ってるでしょ。
まあまあ、試しに1回騙されたと思って話してみてよ。」
ーーー自分を騙さず、素直に生きていく、ということは今の私達には少し難しい。誰かの評価を気にして、従順に生きていくほうがずっと楽だし、効率的だから。
でも卒業するまで、それとも今だけかもしれないけれど。たまには自分を隠さず生きてみるのもいいのかもしれない。
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