Ⅰ.レギオンの過ち(R18G)

1/17
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ

Ⅰ.レギオンの過ち(R18G)

 草木も眠る夜、雨が上がった。  静寂(しじま)が周囲を支配している。その夜寝付けなかった青年には、雨音が途切れてしまった事は嬉しくないことだった。なぜなら彼の腕の中で眠る(あるじ)の存在を、否応なしに意識してしまうからだ。 「は………」  できるだけ吐息を当てぬように、彼は溜息をついた。  石の天井と壁は千年前に作られたという。二人でひっそりと生活するのに、必要以上に丈夫だが、壁のない間取りと木板を立てただけの窓では、自分達の生活音を閉じ込めておくには難がある。が、彼らは特に困りはしなかった。  なぜなら住まいの周りに他の人家など無く、加えて言うならば、其処は厳かに聳える大樹に囲まれた禁足地の中。清らかな泉の畔に残る、かつて神殿と言われた、たった一人のために造られた場所なのだから。 「ん…ぅ………」  彼の腕の中で、(あるじ)がわずかに声を漏らすも、深く眠りについて目を覚まさない。 「少し寒いか……」  とうに世間から忘れ去られた、その神殿の主には一人だけ、従僕にして守護者がいた。重ねた掛け布団を引き寄せ直す、黒い髪に浅黒い肌の青年。彼は作法も教養もないまま、ただ己の心のまま、己の(あるじ)に献身している。  昼は森の中で弓と斧を手に狩りを行い、木を切り、主の身の回りの世話を進んで行う。  月が昇れば、青年が街から持ち込んだシーツを敷き、暑ければコットンかリネンを、寒ければ毛皮を寝具として、毎夜、寝処を調える。そして眠る時には、(あるじ)が青年を抱き枕にするか、あるいは青年の腕に(あるじ)が収まり眠りについた。  今、(あるじ)の薄い身体は青年の腕の中にある。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!