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喧嘩は終わったのか、レギオンと銀髪のアルジは光魔法で灯したランプを前に並んで座っていた。小柄なアルジのほうが、もうひとりにもたれ掛かって目を瞑っている。
「レギオンで良い、イオ」
「名前呼んでくれて嬉しい♡ じゃなくて……ごめんね、寝てたかな彼」
「……ああ、当分おきねえよ」
「そっか」
離れた所で、メロスが死体を担いだままイオが答えを持ち帰るのを待っている。
「亡骸を弔いたいんだ。良い場所があったら教えてくれないかな」
イオの言葉に、レギオンは頭に手を当ててガリガリと掻いた。浅く眉間に皺を寄せて、当然だがいい反応とは言い難い。
「何から何まですまない。でも僕たちも明日中には戻らないと」
「あとから来たもう一人も殺せ」
「……いや、連れて帰る」
「殺せ」
レギオンの強い言葉にイオは顔を顰めずに居られなかった。
「ここの裏に、今まで来た奴らの墓がある。ただ埋めて、標を立ててあるだけだがそこを使え。だけどな、一度ああいう風に来たやつはまたここに来る。……ここに来て――」
レギオンが言葉を区切り、口を手で覆い隠した。
「……ありがとう。言いたくないことは言わなくていいよ」
イオは、レギオンに凭れかかって眠る青年に目を向けた。
明らかな致命傷を負いながら死ななかったどころか、もう彼に傷跡はなく規則的な呼吸を繰り返している。
今までそんな芸当、たとえ魔法が使われたとしても、成功した事例は見たことも聞いたこともない。そんな彼を連れ去るでもなく、ただ傷付けて死んでいった仲間を思い出すと、少なくともメロスは、そして自分と入れ替わった彼はなんとか無事に返したいと改めて思う。
そして、イオはレギオンの前で地面に膝と片手をついた。
「森の途中で彼を離したりはしない。僕たちの詰所まで連れて帰る。……だからどうか、それは許して下さい」
「……簡単に他人に頭下げそうな奴だよな、お前」
赤い瞳は、冷たく青年を見下ろしていた。
「ッ……」
「あ? ……――クソッ。……夜の間に片付けろ」
言葉に詰まるイオを置いてレギオンは急にランプの灯りを消し、銀髪の青年を姫抱きに抱えて立ち上がった。長い白銀の絹糸のような髪がカーテンのように揺れている。
「……ありがとう、レギオン」
石の建物の中に消えていく二人を見送って、イオはメロスとともに亡骸を裏手へと運びはじめた。そこで二人が見たのは、三十はくだらない長い時を経た木の墓標が並ぶ墓だった。
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